「パーリヤなんかよりずっと上の位の魔法使いだったんだ。王妃様は」
 タムが敬意を払って告げるとカトリーヌは神妙な面持ちで呟いた。
「そうだったんですね。それは全く知りませんでした」
 王妃が魔法使いだったという話を聞いて、いったいどんな魔法使いだったのだろうかと想像したが、出てくるのはパーリヤの姿ばかりだった。
「ともかくタムの言う通りなら、パーリヤの弱みは、ここにはないことになるわね」
 渋々それを認めたフローラ姫は、眉間に皺を寄せて二人に尋ねた。
「そうなってくると他に怪しいところはどこなのかしら」
「私は心辺りが全くありません……」
「気になるところと言えば、一箇所だけあるな」
「一箇所というのはどこなの!」
 フローラ姫は勢い込んで、タムを揺さぶった。
「落ち着け。今案内する」
 タムはそう言うと、フローラ姫とカトリーヌを見上げた。
「一箇所というのはこの塔の最上階の部屋だ。そこだけどんな呪文を唱えても鍵が開かないんだ。いわゆる開かずの間だ」
「開かずの間! きっとその部屋に秘密が隠されているのね」
フローラ姫は嬉々として叫んだ。
「しかし部屋が開かないのでは、どうにもならんだろう」
「いいえ、なんとしてでもこじ開けるのよ! 手段は選ばないわ」
彼女はそう言うと、タムを促した。
「とにかく私達をその部屋まで連れて行って」
「まあ、連れて行くことなら、どうってことないがなあ」
 タムは首を傾げながらも、まずは図書室を出ると、誰も入れないように図書室に呪文で鍵をかけた。それから三人は廊下を通り、上に上る階段の前まで来た。タムは二人に告げた。
「ここの塔は外から見ての通り、とてつもなく高い塔だ。幾つも階段を上って行かなくちゃいけないので、まず体力が必要だ。それから各階ごとに人を惑わすトラップがしかけられている」
「トラップって、階下に落ちる穴でもあるのかしら?」
「実際に階下に落ちることはないが、穴があるように見える幻が仕掛けられていることがある」
「幻?」
カトリーヌは、鸚鵡返しに訊き返した。
「そう、幻術だ。惑わされないように気をつけないといけない。でないと、上階に行くことはできない」
「たかが幻でしょ。大したことはないわね」
「幻を見くびるな。このトラップで、精神に異常をきたした者もいたぐらいなんだぞ」
厳しく言うタムの言葉に、フローラ姫も眉をひそめた。