それを聞いたカトリーヌは、顔色を変えた。一瞬脳裏に、自分が調合した毒薬が、その見も知らない王子の食卓にのぼるところを想像して、背筋がぞっとした。
「私はそんなの嫌なの。それに会ったこともない王子と結婚なんて考えられないわ。だから城から逃げてきたのよ」
 一気にそこまでフローラ姫が話すと、カトリーヌとタムは難しい表情を浮かべた。二人とも、交互に顔を見比べながら、どうしたものかと熟考せずにはいられなかった。フローラ姫を城へ戻すのは、いとも簡単なことだが、パーリヤの陰謀をどう止めるべきか、思わず唸ってしまった。
「ともかく私は、パーリヤの弱みを見つけるつもりよ。どうせその弱みも良からぬことだと思うの。そしたら私の父である王にそれを知らせて、パーリヤを追放してもらうのよ」   フローラ姫が確固たる意志で、そう告げると、二人は彼女の計画がとても正しいもののように思えた。
「どうやら、本当のことを話しているようだぞ、カトリーヌ」
「うっ、うん……」
 カトリーヌが困ったように頷くと、フローラ姫は彼女の手を取り、真剣な口調で言った。
「お願い! 力を貸してカトリーヌ。今言ったことが本当なの。名前を伏せていたのは、謝るわ。でもこれが真実なの」
 カトリーヌは目をしばたたいた。そして思った。もしこのままフローラ姫を帰してしまったら、私はパーリヤに毒薬を作らされてしまうかもしれない。そのせいで、その見も知らぬ王子が命を落としたとしたら、償い切れない。
「私、悪いことはしたくないです」
 きっぱり言うカトリーヌに、フローラ姫は大きく頷いた。
「その通りよ。私だって、あなたに悪いことをしてもらいたくないわ」
「ならば、その弱みとやらを見つけなくてはならぬな」
 タムは考え深げにそう答えた。
「決まりねっ!」
 フローラ姫は指をぱちんと慣らした。
「なら、まずはこの図書室の中に秘密の文書がないか探しましょうよ」
「秘密の文書などないと思うがな」
 タムが言うと、フローラ姫は食い下がってきた。
「なぜ、そんなこと言えるの? こんなに膨大な量の本があるのに。本自体が秘密の文書かもしれないし、あるいは本の間に秘密の文書を挟んでいるかもしれいないでしょ」