身支度を整えたカトリーヌは、さっそく小屋の外へ出ると、広大な森の中を歩き回り、朝露を集め歩いた。様々な草や木の葉からとれた朝露を、小瓶の中に落としながら、カトリーヌは自分の朝食用に、食べられる花や木の実も集めた。魔女からは朝と夜用に、固いパンを一個ずつもらうが、それだけでは足りなかったからだ。それでもカトリーヌは文句一つ言わずに黙々と働いたので、魔女にとっては好都合だった。おしゃべりは、時間の無駄でしかなく、その点カトリーヌは、一言もしゃべらず、空いた時間は魔女の塔の図書室に行くので、手のかからない子供だった。
 カトリーヌは、朝露で、小瓶の中身をいっぱいにすると、魔女の塔へ急いで帰ろうとした。と、その時。
「ねえ、そこのあなた」
 カトリーヌはびくりと身を縮めた。声のした方へ視線を向けると、草むらの陰に、自分と同じ年頃の女の子が座り込んでいた。彼女は白いふっくらとした大きな袖のドレスを着ていて、カトリーヌを見上げていた。
「私昨日から何も食べていないの。それで申し訳ないんだけど、少し食べ物を分けてくださらない」
 カトリーヌはおっかなびっくりしながらも、無言で朝食用に集めていた花や木の実を差し出した。
「あら、きれいなお花ね。ありがとう。これは何かしら、何の実かしら」
 彼女はお礼を言ったものの、困ったようにカトリーヌを見つめた。
「申し訳ないんだけど食べ物のあるところまで連れて行ってくださらないかしら」
 カトリーヌは意味がようやく分かると、声を振り絞ってしゃべった。
「今渡した物が、私の朝食です」
 その言葉を聞いた少女は驚きのあまりしばらく声を失った。それから急にわなわなと震え出すと怒って言った。
「あなたを育てているご両親は食べ物をしっかり与えないひどい親なのね。まあ私の親もひどいって言えばひどいけど……」
「あ、あの。私には両親はいません。その代わり魔女が私を育ててくれています」
「ま、魔女?! いったいどこの魔女よ。その魔女の名前はなんていうの?」
「パーリヤさんです」
「パーリヤですって?! じゃあ、あなたはあいつの弟子なの?」
「あ、あいつ?!」
 彼女は、魔女にちっとも敬意を表していないことが、カトリーヌには大きな衝撃だった。