食事が終わると、二人は早速草取りに奔走した。取る草はかぎ草と綿の実、豚のしっぽ草の三種類。かぎ草は、一本の茎にいろんな形の草がついている不思議な草だ。形は三角形だったり、円形だったり四角形だったりする。その葉を煎じて、魔法の粉と混ぜ合わせ、呪文を唱えると、願いごとが叶いやすくなる草だ。綿の実は、綿の木から成る実で、その綿毛でローブを作ると、強力な魔法から身を守ることができる。急いでそれぞれの生えている場所へ行くと、二人は一心不乱に、それらの草や実を摘みとった。二人で摘んだので、予定していた時間よりも早めに終わることができた。次に魔女の塔の台所に戻ると、カトリーヌは、ほれ薬の調合にかかった。彼女はつんできた豚のしっぽ草を、ナイフで細かく刻み、それを木のボールの中に入れ、すりこぎで、押しつぶした。すると甘い香りが部屋全体を包んだ。そのあと、押しつぶした豚のしっぽ草と、金色の輝きの粉、干しぶどう、エメラルドグリーンの液体を、鍋の中に入れると、ぐつぐつと煮込み始めた。
「こんなんで、ほれ薬ができるの?」
 興味津々といった様子で、カトリーヌの動作を眺めていたエリザベスは口を挟んだ。
「一時間ほど煮込むんです。最後に秘密の呪文を唱えるんです」
「どんな呪文?」
「古代語です」
 カトリーヌは神妙な面持ちで答えた。
「また昔の言葉なのね」
 エリザベスはしかめ面をした。
「あまりにも古い言葉なので、意味は伝わっていません」
「意味の分からない言葉を唱えるの?」
「そうです」
「ふーん、そうなんだ」
 エリザベスはあわよくば、その呪文を覚えて自分でも作ってみようかと思ったが、古代語では、発音もよく分からないし、無理だと思いあきらめた。
「さあ、今のうちにこの部屋のお掃除をしましょう」
「それはそうね」
 がっかりしたエリザベスだったが、気をとりなおして、雑巾を手に取り、汚れている台所の台や壁を拭き出した。カトリーヌは得体の知れない液体のこびりついたフラスコや鍋や瓶を、たわしを使って、ごしごし洗った。ずいぶんと汚れていたが、二人の懸命のかいあって、台所はずいぶんときれいになった。
「エリザベス、ありがとうございます。おかげさまで、すごいきれいになりました」
 カトリーヌが嬉しそうに言うと、エリザベスは腕を組みながら、咳ばらいをひとつした。