エリザベスは不思議そうに、顔に手をやって、さっきまであった傷をなぞろうとした。しかし彼女の手には、滑らかな肌の感触しか伝わらなかった。
「あれ? さっきの傷がないみたい」
「もう、大丈夫です。さっきの傷は全くなくなりましたよ」
 満面の笑みを浮かべて、カトリーヌがそう言うと、エリザベスはびっくりした様子で、何度も訊いた。
「ねえねえ、ほんとに、ほんと?」
「ええ、ほんとです。今ここに鏡がないので、お見せできませんが、元通りの白い肌になってますよ」
 カトリーヌは安心させるように、にっこり微笑んだ。エリザベスはそれを聞くと、安堵したようだったが、やれやれといった表情を見せた。
「それにしても、とんでもない目に遭ったわ」
「結局のところ、デリザスは猫ですからね。気をつけないと」
 カトリーヌが笑って答えると、彼女は頷いた。
「そうね。それにしても、この地下の貯蔵庫にもごちそうはなさそうね」
 黄色や緑、青や緑といろんな液体が入った瓶の他に、ひもでまとめられている薬草、軟膏、骨、鱗、尻尾と不思議なものがたくさん置かれていた。しかし食べ物と思われるものは何一つなかった。
 その話になると、カトリーヌもさすがにうんざりしてきて、またですかといった表情を浮かべると肩をすくめた。
「もうごちそう、探すのやめませんか。そんなことより、パーリヤさんから言いつかった仕事にそろそろ取りかからないと、彼女が戻ってきてしまいますよ」
 非難めいた口調で言うカトリーヌに、エリザベスは少し頬を膨らませながら、むっとした調子で言った。
「わかったわよ。ごちそうは、今のところあきらめるわ。でもパーリヤが戻ったら、絶対魔法で出させてやるんだから」
 エリザベスはつかつかと地下の通路を通り抜け、階段を駆け上がると、まっすぐの廊下を渡って、先程のデリザスの部屋の前までやってきた。カトリーヌも、後ろからついて行くと、突如エリザベスの歩が止まった。
「どうしたんですか」