「いいんです、いいんです。いいから早くこの部屋から出てください!」
 カトリーヌは部屋からエリザベスを押し出し、後ろ手で猫部屋のドアを閉めた。
「とんだ災難ね。あなた大丈夫」
「私は大丈夫です。それより、エリザベスの顔の傷を治しましょう。地下に魔法薬がいろいろあるんで、すぐ治るでしょう」
「カトリーヌ、あなたは怪我しなかったの?」
 エリザベスは申し訳なさそうに目を伏せると、そう訊いてきた。
「私は服が破れただけで、背中は無傷ですよ。それより、エリザベス。動物に手をあげてはいけません」
「それはそうかもしれないけれど、でも間違ったことをした時はお仕置きしないと、わからないじゃない」
「それなら、手をあげずに、動物に言い聞かせてやればいいんですよ」
「あら、普通の動物はしゃべらないじゃない」
「しゃべれなくても、動物は利口です。こちらの言うことは分かりますよ」
 カトリーヌは困ったようにそう言った。
「あら、そうかしら。さっきのデリザスとかいう猫。私のしゃべった言葉なんて、ちっとも聞いてないじゃない。それにあの猫、ほんとに魔法が使えるの?」
 エリザベスは不満げにぼやいた。
「いっつもパーリヤさんの料理を、魔法で作っているのは間違いないですよ」
「ほんとかしら」
 不審な目つきのエリザベスにカトリーヌは頭を振ったが、
「そんなことより、その顔の傷を早く治してしまいましょう。もたもたしているとパーリヤさんが戻ってきてしまいますよ」
 今度はカトリーヌが先頭に立って、廊下を歩き出すと、エリザベスも渋々その後をついて行った。
 廊下をまっすぐ行くと左右に分かれていて、右へ行くと降りる階段があり、左へ行くと、上へとつながっている階段があった。カトリーヌは右に曲がると、下へと降りる急な階段を、降りて行った。エリザベスも慎重に階段を降りながら、下の地下室へと歩を運んだ。
 地下室に降り立つと、七、八段段の棚が、幾重にも連なり、部屋の奥までずっと続いていた。棚には、いろんな形の瓶がひしめくように何本も置かれていて、瓶の下の方にラベルが貼られていた。