「デリザスは私の前で人の言葉をしゃべったことは一度もありません。実際しゃべれるのか、それともそうじゃないのか、パーリヤさんしか知りません。でも私達がしゃべっている内容は分かっているはずです」
「そう、なら。結局のところ、普通の猫と変わらないわけね。それなら簡単よ」
 エリザベスは作業台になぜか置いてあった猫じゃらしのような植物を手に取ると、デリザスに向けて、振り出した。
「ほら、デリザスこっちにおいで。おまえはこれで遊びたいのでしょ」
 植物を揺らすと、デリザスの顔も右、左と動き出した。金色の目も、一緒になってきょろきょろと動いた。数秒後、デリザスは棚の上から身構え、にゃあ! とひと声叫んだ。それと同時に白猫は作業台の上に跳び移った。
とん、と降り立った、デリザスは、エリザベスの前までやってきた。
「ほら、見なさいカトリーヌ。私の言うことなら、聞くわ」
エリザベスは嬉しそうに言うと、持っている植物を、デリザスの目の前で思い切り振ってやった。するとデリザスは、興奮した様子で、その白い手をさっと前へ出し、その植物をつかまえようとやっきになった。
「ああ!」
 とたんにエリザベスは痛そうに叫んだ。なんと彼女の白い顔には、猫の爪のひっかき傷が、一本赤味を帯びてできあがっていた。
「大丈夫ですか?!」
 慌ててカトリーヌが部屋の中へ入ろうとすると、デリザスは毛を逆立てて、こちらを警戒し出した。白猫は、口を大きく開けながら、ぎょろりとした金色の目で、カトリーヌを睨みつけた。一歩でも入れば、今度はカトリーヌが犠牲になりそうな勢いだった。
 エリザベスは痛そうに顔をゆがめて、傷に手をやった。
「もう! なんなのこの猫。私の大事な顔になんてことするのよ」
 怒った彼女は、もう片方の手で握りしめたままだった先程の植物を、デリザスに打ちつけようとした。
「駄目です、そんなことしちゃ!」
 カトリーヌは、とっさに部屋の中へ足を踏み入れ、デリザスをかばうようにエリザベスの前に立ちはだかった。びっくりしたエリザベスは、すぐに手を引っ込めたが、カトリーヌの後ろにいるデリザスは容赦なかった。にゃあ! っと、一言叫ぶとカトリーヌの背中に思い切り爪を立てて引っ?いた。みるみるうちにカトリーヌのワンピースはびりっと音を立てて引き裂かれてしまった。
「あら、大変!」
 今度はエリザベスが慌てたが、