土曜日なだけあって、22時前でも店内にはそれなりに人がいた。しかし、座れないほどじゃない。私たちはホットのドリンクを注文して、店内奥にある席に座った。

「倉田ってさあ」
「うん」
「彼氏、いる?」
「いたら、男子と二人でカフェなんてこないよ」
「相変わらず倉田は真面目だね」

 真面目、という言葉が少し引っかかった。私にとっては普通のことだから。まあ、恋人ができたことのない私が、彼氏がいたら、なんて仮定をするのがおかしいのかもしれないけれど。

「古川くんは彼女、いないの?」
「今はいないよ」

 今は、か。
 じゃあ、ちょっと前まではいたのかな。

「ねえ、倉田」
「なに?」
「本当は今日、俺に会いにきたんじゃないの?」

 古川くんは真っ直ぐに私を見つめた。お酒が入っているからか、少し赤くなった頬が色っぽい。

「……だったらいいなって、期待してるんだけど」

 古川くんって、こんなこと言えるタイプだったの?
 私って今、古川くんに口説かれてる?

 好きだった人といい感じになる……なんて、嬉しくてたまらないシチュエーションのはずだ。私だって、それを期待していた部分もある。
 だけど、なにかが違う。私は、この言葉を素直に喜べない。

 だってきっと、昔の古川くんなら、こんなこと言わないから。

「これ飲んだら、ちょっと散歩しない?」

 ドリンクが入ったカップを持って、古川くんがにっこりと笑った。その笑顔はやっぱり昔から何も変わっていなくて、頭がくらくらした。