トイレに行くふりをして、私たちはこっそり店を出た。料金は、ちゃんとテーブルの上においている。
 店を出て20分ほど歩くと、見慣れたバス停に到着した。学校へ行くためには、このバス停で乗り換える必要があったのだ。
 私と古川くんは、二人ともこのバス停を使っていた。だから、クラスが変わっても高校在学中は一緒にいられた。

 懐かしいな、本当に。

「バス待ってる間遊ぶだけの予定だったのに、バスに乗り遅れたことあったよね」
「うん。古川くん、時計見てなかったもんね」
「倉田だって、時間教えてくれなかったじゃん」

 私はバスの時間に気づいていた。ただ、古川くんと過ごす時間が楽しかっただけだ。

「あれやる?」

 古川くんが指差したのは、太鼓のリズムゲームだった。高校を卒業してからは一度もやっていない。

「うん。久しぶりだから、できないかも」
「倉田、久しぶりなの?」
「たぶん、高校卒業してからやってない。古川くんは?」
「俺はたまにやるよ。飲み会の帰りとか」
「そうなんだ」

 頷きながら、古川くんが自然に二人分の料金を入れてくれた。高校生の頃は、そんなことはしなかったのに。

「曲、どれにする?」

 画面を見つめる。あの頃はなかった最新の流行り曲がたくさんあって、なにを選んでいいか分からなかった。