店内は予想通りがやがやとしていた。禁煙なのはせめてもの救いだけれど、酒の匂いが充満した騒がしい店内は心地いいものじゃない。
 きょろきょろと視線をさまよわせていると、奥の方に座っていた女性が手を振ってきた。

「朱里、こっち!」

 菜々美(ななみ)だ。隣の県の大学に進学して、今もそこで働いている同級生。彼女とは結構仲が良くて、今でもたまに会っている。

「ごめん。私、ちょっと遅かったかな」

 謝りながらみんなに合流する。既に座っているのは7名。今日は全部で12人と聞いているから、半分くらいだ。

「大丈夫。時間になってないし。ほら、私の隣空いてるから」

 気を遣って菜々美がスペースを開けてくれる。隣県にいる菜々美は他の同級生たちともそれなりに交流が続いているらしいが、私は菜々美以外と交流はない。
 せいぜい、SNSのストーリーにいいねをするくらいだ。

「もしかして、倉田(くらた)さん?」

 だから、私の名前を呼んだ人が誰なのかすら、分からなかった。曖昧な笑みを浮かべて、うん、と頷く。すると、変わったね、とすぐに返された。

「なんか、都会の人! って感じ。お洒落だし」
「……そ、そうかな」

 私がそんな風に言われる日がくるなんて、昔は想像もしていなかった。ちょっとくすぐったいけれど、悪くはない気分だ。

「私なんて、子供が生まれてからは忙しくておしゃれなんてなかなかできないよ」

 そう言ったのは、佐々木(ささき)さんだった。確か、古川くんと同じで地元の専門学校に進学した子だ。
 高校時代と比べると佐々木さんはすごく変わった。それほどの年月が過ぎたのだ。

 古川くんも、変わっちゃってるのかな。

 まだ古川くんはきていない。今の古川くんに会うのは楽しみだけれど、怖くもある。会えば、頭の片隅にずっといる昔の古川くんが消えてしまいそうで。

「あ。倉田、もうきてたんだ」

 聞き慣れた声に身体がすぐ反応した。振り向くと、昔と変わらない甘い笑顔を浮かべた古川くんが立っている。
 少し色素の薄いふわふわの髪、形のいいアーモンド形の瞳、そしてなにより印象的な、どこか気怠げな雰囲気。

 身長はたぶん、少し伸びた。年もとっている。でも、間違いなく古川くんだ。

「久しぶり、倉田」

 心臓が熱くなる。何度もシミュレーションしたのに、挨拶すらちゃんとできない。

「ひっ、久しぶり、古川くん……」

 これじゃあ、意識しているのが丸分かりだ。でも、古川くんは笑ったりしない。うん、と優しく頷いて、私の真正面に座ってくれた。

「倉田さん、すげー変わったよな。古川もそう思うだろ?」

 古川くんの隣にいた男子がそう話しかける。そう? と古川くんは首を傾げた。

「確かに変わったけど、倉田は倉田でしょ。ね」
「……うん」
「全然地元に顔出してくれなかったよね。俺、寂しかったんだから」

 ごめんね? それとも、私も寂しかった?

 上手い返事を見つけられない間に、飲み会が始まってしまった。