「え? 会場って、ここ?」

 スマホの地図と目の前の看板を見比べ、私はげんなりしてしまった。飲み会の場所として指定された場所が、あまり得意な雰囲気ではなかったからだ。
 安さを売りにした飲み食べ放題の居酒屋。大学生の頃は何回かこういう店にも行ったけれど、社会人になってからは仕事関係以外では利用していない。

「……まあ、仕方ないよね。飲み会だし」

 心を入れ替えて深呼吸をする。せっかくここまできたのだから、始まる前に気分を下げるのはもったいない。

 今日の飲み会には、古川くんも参加する。それを聞いて、私は三ヶ月くらいサボっていた美容院に行ったし、マツエクではいつもより高いメニューを選んだ。
 服だって、奮発して3万円近いワンピースを買った。それも全部、古川くんに会うためだ。

 高校の頃の私は、かなり地味だった。勉強が忙しくてメイクやヘアセットをする暇なんてなかったし、あんまりそういうことに興味もなかったから。
 でも今は違う。女子大に進学したこともあって、周りにはお洒落が好きな女の子がたくさんいた。その影響でお洒落に目覚め、化粧品メーカーに就職したのだ。

「ちょっと、気合入れすぎちゃったかな」

 いや、でも、久しぶりに会うんだし、こんなものだろう。
 覚悟を決めて、私は店内に足を踏み入れた。