私の地元では、不定期に高校の同級生を集めて飲み会が開催されている。
 同窓会なんて大袈裟なものじゃなく、多くて10人ちょっとしか集まらない小規模なものだ。
 高校を卒業してからずっと続いている集まりだけれど、私は一度も参加したことがない。大学進学を機に地元を出た私は、なんとなく地元に残った子とは会いにくくなってしまったから。

「古川くん、結構参加してるよね」

 私と違って、古川くんは高校卒業後も地元に残った。確か、ペット関連の専門学校へ進学したはずだ。
 どこで働いているかは分からないけれど、今も地元にいることは知っている。

「……次の飲み会、行ってみようかな」

 新幹線を使わなきゃいけないけれど、帰れない距離じゃない。こんな風にずっともやもやするくらいなら、もう一度古川くんに会ってみるべきだろうか。

「古川くん、私のこと覚えてるかな」

 私の高校生活は、古川くんの隣の席で始まった。古川くんはいつも眠そうにしていて、遅刻も多くて、あんまり成績もよくなくて、ちょっとだらしない人だった。
 面倒くさがり屋で、いい加減なところもあって……でも、すごく優しくて、古川くんといると楽に呼吸ができた。
 他の男子とはなにかが違ってて、いい意味で男の子っぽくなくて。だから私も、古川くんとは気楽に話せた。

「テストの結果が悪くて落ち込んだ時、慰めてくれたっけ」

 定期テストで悪い点をとって落ち込んでいたら、大丈夫、と古川くんが言ってくれた。次は絶対上手くいくよ、なんて根拠のない古川くんの言葉が嬉しくて、私は必死に勉強した。
 そして次のテストが終わった時、偉いね、と笑顔で言われたのを覚えている。

 もうずいぶん前の記憶だ。曖昧な部分も多い。でも目を閉じれば、砂糖菓子みたいに甘い古川くんの笑顔が頭に浮かぶ。

「……また、古川くんの笑顔が見たいな」

 決めた。次に飲み会の案内がきたら、絶対に参加する。そして、もう一度古川くんに会おう。