朱里(あかり)。今度友達紹介しようか? それとも、合コンとかの方がいい?」
「……またその話?」
「何回でもするって。私ら、もう25だよ?」

 分かってるの? と念を押すように言われ、返事をする代わりに視線を逸らす。風音(かざね)は大きな溜息を吐いて、幼い子に言い聞かせるみたいに話を続けた。

「後回しにして、後悔するのは朱里なんだからね」

 分かっている。分かっているつもりだ。だけど……分かっているつもりになって、もう何年が経っただろう。風音がしびれを切らすのも無理はない。
 大学を卒業して、社会人3年目。彼氏ができた、なんて話題は通り越して、結婚や出産の話が少しずつ耳に入るようになってきた。

 でも私はまだ、一度も恋人ができたことがない。

「朱里、せっかく可愛いのに。恋愛、興味ないわけじゃないんでしょ」
「……うん」
「だったら行動あるのみ! だよ」
「……うん。それも、分かってるんだけど……」

 空っぽになったグラスに手を伸ばす。ストローで意味もなく氷をかき混ぜ、ゆっくりと息を吐いた。

「だって、初めての相手になるんだよ。そう思ったら、いろいろ考えちゃって。年齢的に、結婚相手になるかもしれないし」

 私が恋愛に慣れていたら、もっと気軽に風音の提案を受け入れていただろう。でも、私は恋愛初心者だ。
 初めて手を繋いで、初めてキスをする相手。そう考えると、真剣になってしまうのは仕方がない気がする。

「結婚相手になるかもしれないからこそ、早く付き合って、長い時間かけて見極めなきゃ」
「それも分かってるよ」
「もしかして、まだ高校の同級生のこと、引きずってるの?」

 風音に軽く睨まれ、誤魔化すこともできずに私は頷いた。そんな私を見て、風音が呆れたように笑う。
 彼女からすれば、10年近く前の相手を引きずっているなんてあり得ないのだろう。
 それに私は、古川(ふるかわ)くんと付き合っていたわけじゃない。告白だってしていない。もっと言えば、当時の私が恋心を自覚していたかすら怪しい。

 だけど恋愛のことを考えるたびに、古川くんのことが頭をよぎってしまう。高校を卒業してから、一度だって連絡をとっていないのに。

「だったらいっそ、古川って人に会ってきたら? そうしないと、朱里は前に進めないんじゃないの?」