***


 カーテン越しに射す光に、私は目を覚ました。
 隣では課長が眠っている。

 優しい優しい愛撫を全身が覚えている。幸せだった。
 自分から望んだこと。それでも。これでおしまいと思うと悲しい。
 課長の寝顔が愛しくて、頬に口づけた。

「ん……。ああ……。おはよう」
「おはようございます」
「……」

 課長はゆっくりと起きた。そして、私をじっと見た。その瞳は複雑な色をしていた。

「これで……本当によかったの?」
「……はい」
「僕は五島さんを哀れんで寝たわけではない」
「……は、はい」 

 課長の顔が滲む。

「この気持ちをどういうかはわからない。でも、愛の一つだと思っているよ」

 課長の指が私の髪を優しく梳いた。

「ありがとうございます。十分です」
「でも、これ以上は……」
「わかっています」
「君といると君を好きになっていく。でも、僕は家族に幸せなままでいて欲しい。五島さんへの気持ちがあるからこそ、これ以上一緒にいられない」
「はい 」
「君もちゃんと幸せになってほしい。心から思うよ。でも、やっぱり僕とではない。分かるね?」
「……っ」

 返事をしようとして、言葉がつまった。

「っ、それでもっ。それでも、しばらくは課長を想っていてもいいですか? もう少しだけ時間を下さい。もう何も望まないから! ちゃんと諦めますから」

 課長は私を抱きしめた。

「すまない。本当にすまない。でも、もう今後は、ただの課長と部下だ」
「っ……うっ」

 私は嗚咽を堪えきれずに、課長の胸で泣いた。


***


 それが先週のことだ。

 課長は、あくまでも優しく私に接してくれている。一部下として。

 夕飯も一度だけ食べた。
 けれどその後飲みにいくことはなかったし、以前あった空気はもうそこにはなかった。

 部下を気遣う心しか感じ取れなかった。