電話番号を消してしまえば、僕は楽かもしれない。

けれど彼女は、両親の電話番号がないことが分かった時点で、きっとその死を悟ってしまう。

留守電を残し、少しだけでも生きているという希望があれば、彼女の心は救われると思った。

彼女に幸せでいてもらえることが僕の幸せ。

自分が幸せでいることが僕の幸せだと、彼女は短い時間の中で理解したんだ。

僕の方が、彼女に感謝してもしきれない。

家族の死を隠すなんて最低な行為を咎めずに、それでも傍にいてくれるのだから。


ーー僕たちはこれからも、お互いを幸せにするために、嘘と隠し事、そして偽りない愛と共に生きていく。


今日の彼女には今日しか会えない。

同じ映画のチケットを仕舞って、

また朝が来れば、僕は彼女が起きる前に体を起こし、いつも7時ピッタリに目を覚ます彼女を寝室の外で静かに待つ。

一緒のベッドで寝てはいるが、起きて急に見知らぬ男が一緒にいると取り乱しかねないので、外で待つようになった。

そして、起きた頃を見計らって部屋に入り、こう言うんだ。

「驚かせてごめん。僕は駿だよ」

END.。o○