「駅まで送っていこうか?」
「ううん、ここでいい。これ以上一緒にいると、私は抱えすぎちゃうから」

 二時間ほど飲んだ後、五年ぶりの再開とは思えないほどあっさりと店の前で別れた。
 遠ざかる湊のショルダーバッグでは、桃色のお守りが揺れている。俺の鞄にも色違いの水色のお守りが付いている。神戸に行ったときに生田神社で買ったお守りだった。
 当時は知らなかったけど、生田神社は縁結びで有名な場所だった。

――今はまだ、舟木君には同じ夢を追いかける人であってほしい。

 今は、まだ。
 いつになるかはわからないけど、いつかまた巡り合う時は来るのだろうか。

 湊の姿が見えなくなった頃、スマホが震えた。
 ああ、そうだ。結局、乗松との約束をすっぽかしてしまった。さすがにどこかで埋め合わせをした方がいいだろうか。
 そんなことを考えながらスマホを取り出すと、今はほとんど使用していないアカウントにメールが届いていた。
 送り主は、大学生1年生の時に実験データをやり取りしていた相手。十年ぶりくらいのメールだった。
 
『舟木君が造った船を、心待ちにしています』

 そんなメッセージに添えられていたのは、キラキラと光る海に寄り添う真新しい港町。
 その港に、自分が造った船が着岸する景色が、不思議なほどはっきりと思い浮かんだ。

『湊の夢に乗れる日を、どうか待っていてください』