「実験は二人一組でやるから、適当にペアを作ってくれ」

 大学に入ってまで、適当にペアを作るイベントがあるとは思っていなかった。
 教養課程の一年生にも週に一回は専門課程の講義があり、後期は毎週基礎的な実験を行うことになっている。
 周囲を見ると、続々とペアが出来上がっている。四国を出て関西の大学に進学して、なんとなくノリについていかないからとまともに友達付き合いをしていなかった。様子を見ているうちに取り残されてしまった。
 教室を見渡すと、俺のように取り残されている女子が一人。

「湊さん。もしまだ相手がいなければ、ペア組まない?」

 話すのはほとんど初めてだったけど、名前は覚えていた。
 俺の言葉に顔をあげた湊花楓は、クリッとした目が印象的だった。人のことをとやかく言えた身分じゃないけど垢抜けない感じがかえって話しかけやすかった。

「うん、よろしく」

 湊花楓はにこりともせず頷いた。そのまま湊の隣で実験の説明を聞いて、実験室に移動する。
 今日の実験は土の密度とかサイズのばらつきを計測するというものだ。言葉にすると単純だけど、手順としては試料の土を水の中に沈めたり、乾燥炉で乾かしたりと手順は意外と多い。

「次、ピクノメーターを水で満たして質量と温度をはかる」
「162.23g、28℃」

 湊とは必要以上の話はせずに実験を進めていく。無駄な話をしないせいか実験は順調に進んだ。土の体積などを測り終え、あとは乾燥炉で乾かすだけだ。ただし、その乾燥時間は二十四時間。残りの作業は来週改めて行うことになる。

「どこかで結果の整理していく?」

 今日行うべき作業は終わったけど、データの整理がまだ残っている。実験器具を洗っている湊に声をかけると、湊はちらっと俺を見て首を横に振った。

「あとは私がやっておくから」
「いいの?」
「他にやることもないし。連絡先教えてくれれば、結果も送る」

 俺もバイトまではまだ時間はあるのだけど、このまま二人で作業を続けても間が持たない感じだったから、ありがたくその言葉に甘えることにする。連絡先、ということでSNSのアプリを開いてみたけど、メールアドレスを教えろと言われた。仕方なく、大学からの連絡用だけに使っている状態のメールアドレスを教えて、その日は解散した。