同窓会会場となったホテルの大部屋の入り口では、懐かしさを語らいあう同級生の声であふれていた。
 大学卒業から五年を記念した地球環境工学科の同窓会の案内が来たとき、当初は欠席するつもりだった。大学時代の自分の責任だけど、卒業してからも連絡するような友人はほぼいなかった。そんな俺のところまで案内が来たことが驚きだった。せっかくの案内ではあるけれど、そんな俺が参加しても気まずいだけなのはわかっていた。

「あ、舟木君、来てくれたんだ!」

 受付に向かうと、俺をこの場に誘った乗松が記憶に眠っていた通りのニパッと笑みを浮かべて手を振ってくる。乗松が来場者側ではなく、受付スタッフ側にいる姿を見てやられたことを悟る。
 乗松は大学時代に同じ研究室に配属された同期で、欠席連絡をしようとした俺に同窓会へ来るよう何度も連絡してきた。そんな乗松に根負けするような形で同窓会に参加することを決めたわけだけど。

「もしかして、俺を誘ったのって」
「ごめんっ! せっかく運営するのに、閑散としてたら嫌だったから」

 乗松はパチンと両手を合わせて謝罪のジェスチャーをした後、あまり悪びれた気配もなく受付簿の俺の名前にチェックをつけて、舟木彰と書かれた名札を差し出してくる。卒業してまだ五年とはいえ、交友関係が浅く狭かったせいで顔と名前が一致しない相手の方が多いから、名札はありがたい。

「俺なんか動員しなくても、十分盛況じゃんか」
「おかげさまで。でもこういうイベントは人数が多ければ多いほどいいしね」

 乗松の手元の名簿をざっとみただけでも、五十人以上は出席するようだ。学科の同期の人数が百人ちょっとだから、出席率はなかなかのものだろう。

「あれ、湊も出席するんだ」

 名簿をぼんやり眺めていると、湊花楓という名前が目に入った。

「うん。ダメ元で連絡してみたら、ちょうど帰国と日程被りそうだからって」

 そういえば、湊は今、海外で働いているという噂を聞いたことがある。乗松は俺が海外にいる湊が来ることに驚いたと思ったようだけど、乗松の言葉を聞くまで湊が海外にいることも頭になかった。
 俺が驚いたのは、湊も俺と同類――同窓会みたいなものには顔を出さない類の人間だと思っていたから。