子犬みたい、と密かに心のなかで呟く。

子犬ちゃんはこっちこっち~と言って私の手を引き、地獄の階段を降りさせる。

私の誓いは早くも崩れ去りそうだ。

目の前にエレベーターという、人類の努力の結晶があるというのに。

「あの…海漣?エレベーター、使わないの?」

「えー?何言ってるの?生徒はエレベーター使えないよ?」

衝撃の事実。

「やっぱり来るのやめようかな…。」

心の底から飛び出してきた小さな呟き。

運悪く、海漣に拾われてしまった。

「まぁまぁ。前の実稲だったら修行になるーって言って上り下りしてたのに。」

「どれだけストイックだったのよ、私…。」

「そりゃ実稲は天才陰陽師だったもの。皆の憧れの的だったよー。」

陰陽師。

学校名を見たときに、ある程度は分かっていたけれど…。

私は、陰陽師だった。

きっと、メモ帳のあれは呪文だろう。

夕霧寮はこの学校の名前だし、本部というのは仕事を依頼する組織か何かだと推測できる。

水雫(みしず)は陰陽師仲間だろうか?

しかし、まだどれも憶測の域を出ない。

海漣に聞くほうが手っ取り早い。

「ねぇ、海漣。私って陰陽師だったんだよね?」

「うん、そうだよー。ほーんとに、すごかったんだからー!」

純粋無垢な笑顔を見て、少し胸が痛む。

「それにしては馴れ馴れしくない?」

「うっ。それはいいの!」

アニメのように、コロコロと変わる表情が面白い。

「そっか。まぁ、海漣には助けられてるし。」

「でしょでしょー!海漣、役に立つオンナです。」

謎のドヤ顔をいただきました。

深く息を吸って、吐く。

私はこれから、この子を使い潰すんだ。

笑顔を作って海漣に言う。

「じゃあ、教えてくれる?陰陽師と、私に関しての全て、海漣が知ってること。」