「きゃあああ」

何人かの女子生徒が突進美少女とともに周りを巻き込んで倒れた私に悲鳴を上げた。

「”きゃあああ”とは失礼な。」

いつの間にか少女が起き上がっている。

完全に女子生徒の悲鳴を複製した彼女は口をとがらせながら私に手を差し出し、

「やーっと来てくれた!いっつも保健室登校なんだもん!!」

()ねたようにいう。

えーっと。

なんと答えるのが正解なのだろうか。

きょとんとした顔をしてしまう。

少女は不思議そうにきょとんとしている。

きょとん返しか。

とりあえず、ツッコミを入れておく。

どうしようかとしばしの間フリーズし、全てを説明することにした。

「ごめんなさい。今私、記憶喪失中なの。」

少女は豆鉄砲を喰らった鳩のような顔になっている。

「ふぇ?記憶喪失?」

「うん。」

「ガチ?」

「ガチ。」

「マジ?」

「マジ。」

「え?ええええええ?」

爆発寸前の火山のようになっている。

「記憶?喪失ぅーーーーーーーー!????」

「だからそうだって。」

うるさいので明日からは保健室登校にしようかと密かに悩む。

少女は相変わらず壊れたロボットのように

「記憶、喪失?」

と繰り返している。

そして急に両頬を叩くと、私の方に向き直った。

「よし!私は洞穹(ほらあめ)海漣(みらん)!改めてよろしくね、実稲(みいね)。」

実のところ、海漣の反応にはかなり驚いた。

適応力が高いというのか、なんというのか。

記憶喪失と知っても仲良くしようとしてくれているのか。

「いい子だ…。」

思わず言ってしまった。

しまったと思ってももう遅い。

「いい子!?ホント!?うっれしー!!仲良くしよーね!!」

まぁ、悪い子ではないようだ。

暫くの間、教室に来るのも悪くないのかもしれない。

ただ、エレベーターを使おう。

絶対に。

固く誓った。

だが、これで万事解決…というわけには行かない。

まだ一つだけ問題は残っている。

「ところで…私の席はどこ?」