「記憶喪失?」

呟きが漏れる。

昔のことを思い出そうとすると、胸の動機が早くなる。

割れそうなほどに頭が痛む。

どうしようもなく、不安になる。

あぁ。

身体が、心が拒んでいるんだ。

前の自分に戻ることを。

何かを思い出すことを。

それなら、それでいい。

思い出すことで悲しくなる記憶なら。

苦しくなる思い出なら。

もういらない。

そう、思えればよかったのに。

こんな、宙ぶらりんな状態で、自分を強く持つなんて、私には、できない。

「本当に、弱いな…。」

初めてのはずのこの言葉は、何回も言ったことがあるような重みを持っていた。

目に光が宿る。

「思い出さなきゃ。」

決意を込めて口に出す。

苦しくなっても、悲しくなってもいい。

思い出さなきゃ。

忘れちゃ駄目だ。

全部、私なんだから。

大事な大事な、私の一部なんだから。

ねぇ。

私は、どんな私だったの?

あなたに、会える時を待ってるよ。

昔の私にそう語りかけると、携帯電話を手に取った。

ベッド脇のサイドテーブルの上にぽつんと置かれている。

まずは、友好関係の把握から。

そう思い、メッセージアプリを立ち上げる。

目に飛び込んできた文字。

トークルームはありません。

つまり…友達は0人だった。

これって、前途多難??