忘れもしない、小学4年生のある日。

私は、泣きながら帰路についていた。

その日も、私はいじめられていた。

ある日突然、クラス中から無視されるようになったのだ。

理由はわかっていた。

いじめられていた他の子を庇ったからだ。

よくある話。

自分は何も悪いことをしていないのだから、胸を張って堂々としてればいい。

そう思えるほど、小学4年生は大人じゃない。

何か悪いことをしちゃったの?

何でもするから。

お願い、許して。

そんな言葉を聞くと、クラスのリーダー格の女子はニヤリと笑ってこう言った。

「じゃあお前、今日から私のパシリな!」

這い寄ってくる絶望。

全てが壊れる音が聞こえた。

パシリ…?

手下ってこと?

私は、これから1年間、もしかしたらずっと、あの子に媚びへつらっていなきゃいけないの?

嫌だ。

強く思った。

気がついたら教室を飛び出していた。

泣いて、走って、また泣いて。

ようやく顔を上げると、そこは知らない場所だった。

「ここ、どこ…?」

そう呟いても、誰もこちらを見ない、気にしない。

どうしよう。

そう思っても、動けずにそこでうずくまっていた。

どれくらいの時が経ったのだろう。

涙はすでに枯れ、恐怖すらも消えかけていた。

帰ろう。

ようやくそう思えた頃、恐怖は再びやってきた。

恐ろしい、肉体を持って。

グゥゥ、ガァァァ。

地の底から聞こえるようなうめき声がする。

恐る恐る後ろを向く。

見てはいけないと分かっているのに、見てしまう。

止められない。

私の後ろには、言葉では形容し難いほど恐ろしい、異形がいた。

(ケガレ)ーー。

あぁ。

私は、ここで死ぬんだ。

そう覚悟した。

穢の爪が迫ってくる。

思わずぎゅっと目を瞑る。

いつまで経っても、衝撃は来なかった。

目の前にいたのは、美しい黒髪をなびかせた少女。

紅く光る目は穢を捉え、手元の剣で何度も穢を斬り刻んでいく。

1分もかからなかった。

最後の抵抗とばかりに振り上げた腕を斬られ、穢は小さなうめき声を上げて、消えた。

いつの間にか周りを取り囲んでいた闇が消える。

少女はこちらを向くと言った。

「あなた…この町の住人じゃないわね。帰りなさい、あなたの居場所へ。」

少女が私の額に手を触れると、私の身体は光に包まれた。

必死に口を動かしても、うまく言葉が出ない。

眩しくて、目が開けられない。

しばらくして、明るさがもとに戻った。

恐る恐る目を開けると、そこは私の家の前だった。