柔らかい。

目を覚ますと、そこは夢の世界だった。

白い雲の上で、色とりどりの花が咲き乱れ、輝く蝶々たちが飛び回っている。

私にかけられていた雲の布団は、ベタベタはしないのに甘い匂いがして、食欲を誘う。

何もする気が起きない。

しばらくぼーっとしていると、急に人が現れた。

なんの前触れもなく、急に。

テレポートとか言うものだろうか。

美少女が現れた。

ややツリ目がちな透き通った透明な瞳。

左目には痛々しい傷があり、目が開いていない。

小さな口から顔を出す八重歯は光を受けてキラリと光った。

「やぁ。よく来たね、実稲(みいね)。」

急に話しかけてくるものだから、それはそれはびっくりした。

どうにか口を動かす。

「あなたは誰?」

目の前の彼女は呆然としている。

と思ったら、マシンガンのように話し始めた。

「覚えてないの?まさか、僕のこと忘れちゃったとか言わないよね?だって、僕だよ?僕には、心をひらいてくれてたの思ってたのに…。っていうか、電話帳の個人の連絡先って僕のしかないでしょ?」

「そのまさかです。記憶喪失中ですが、なにか?っというか、星谷水雫って、あなたですよね?あなたと馴れ合う気はありませんけど。」

右目の釣り上がり度が増す。

目の前の彼女は大きなため息を付き、こう言った。

「はぁ。実稲まで、染まってしまったのか。」

「私まで…??」

言葉の意味が飲み込めず、思わず聞き返してしまう。

右目が更に釣り上がる。

どうやら地雷を踏んでしまったようだ。

「なぜみんなして僕を否定するんだ?強さを求めるのは、当たり前のことじゃないか。」

「当たり前?他の人を犠牲に手に入れた力なんて、穢れている。そこまでして強くなっても、敵を増やすだけ。無意味な行動よ。」

負けじと言い返す。

本日二度目の大きなため息。

「ほんっっとうに、残念だよ。今日はもう帰ってくれ。また会おう。迎えに来るよ。」

「はい?二度と会いたくないーー」

言葉が遮られる。

竜巻のような荒々しい風が私を取り囲む。

体が浮く。

意識が遠のく。

また?

そう感じた。

目が覚めると、目の前には真っ白な天井があった。

身体を起こすと、ガラリと勢いよく扉が開いた。

「あー!起きたー??大丈夫?急に倒れたんだからー!!」

海漣がこちらに駆け寄ってくる。

怖かったよぉーと言う彼女の頭をなで、笑いかける。

慎重に言葉を選び、口を開く。

「私、水雫に会った。」

海漣の動きが止まる。

顔が青ざめている。

部屋の扉が開き、大人が入ってきた。

そして言った。

亜輝(あかぐ)実稲さん、あなたには退学してもらいます。」