村の灯りも消えてしまい、人々は皆家の中へ入ってしまって人気が全くない。
 夜の村ってこんなに孤独で寂しいものなのね。初めて知った……。
 私はどうすればいいの。このまま戻っても、明日にはここを出て見合いをしなければならないんだわ。そんなのはいや。ずっと一人で生きていくほうがいい。
 そのとき、離れたところから足音が聞こえた。

 「誰だ!!」

 ……この声は、もしかして。

 「竜司、様?」

 「蘭羅……!? なぜここに? それに、こんな時間に……」

 「宮殿を抜け出してきてしまったのです」

 竜司様は持っているろうそくを私のそばに置いてくる。冷え切っていた心も体もあたたまる。
 お帰りになるかと思ったけれどそんなことはなく、竜司様は何も言わずに隣に座ってくれた。

 「何があったのか……聞いてもいいか?」

 「はい、実は……お見合いの話が来てしまったのです」

 全て竜司様に話した。
 今までは苦しいことも辛いことも、人に話すことはなかった。
 愛魔村の姫である私が、弱みを見せてはいけないと思っていたから。
 でも竜司様と出会ってから崚に隠し事をしたり、泣いてしまったり、宮殿を抜け出したり。
 私……わがままになってしまったの、かしら。

 「蘭羅は、見合いがしたくないのだな」

 「はい……その通りでございます」

 「実は私も、前に一度見合いの話が来たんだ。だが断った」

 「竜司様が……? どうしてお断りしたのですか」

 言ってからはっ、と気がつく。
 王子様に向かって私に関係ない話を踏み入って聞くなんて失礼にも程があるわ……。

 「ご、ごめんなさい、今のはお忘れになって」

 「いや、いい。私は、私が決めた相手としか婚約したくないと思っているからだ」

 あ……私と同じだわ。
 私も一生のパートナーなのだから、自分が決めたい。勝手に決めた婚約者(フィアンセ)なんかと結婚したくないもの。

 「竜司様と同じ考えです。私も、そう思っております」

 「そうか。じゃあ、見合いはしなきゃいい。その家来も、蘭羅のことは考えてくれるはずだ。言いなりになる必要なんかない、蘭羅姫」

 ずっとこの見合いのことばかり考えていて心が重かったのに、竜司様に相談するとすごく胸が軽くなる。
 竜司様が、私にとって特別な存在なのだわ。まだ出会ったばかりなのにこんなに惹かれるのはどうして。
 私……竜司様のことが……。

 「そういえば、竜司様はどうしてここにいらしたのですか? 愛魔村に何かご用が?」

 「いや、特に用はない。私もたまにはこの村に来てみたかっただけだ。日が昇っているときは敵だと思われてしまうから、誰もいない夜間に来たのだ」

 ふふ、もしそう思われても、竜司様は敵なんかじゃありませんのに。
 こんなにも優しくて穏やかで、あたたかい心の持ち主に出会ったことはないわ。
 他のものが目に入らないほど、私は竜司様に惹かれていた。

 「蘭羅は、これからどうする?」

 「宮殿に戻ります。竜司様とおたわむれしていたら、気分が軽くなりました。どうもありがとうございます」

 「礼などくれるな。また逢う日までさよなら、蘭羅」

 竜司様はそう言って、去っていった。
 私は竜司様が見えなくなるまで、大きな背中を見つめていた。