勇者
「ねえねえ町娘ちゃん。俺と魔王(まおう)討伐(とうばつ)へ行こうよ」


町娘
「え? 何なんですかあなた……?」


勇者
「俺は勇者! 世界を救う英雄さ!」


町娘
「で、でも私戦えませんし」


勇者
「いいのいいの! 戦えなくったって! 戦うのは俺だから!」


町娘
「で、でも私魔法も使えませんよ?」


勇者
「いいのいいの! 魔法使うのは俺だから!」


町娘
「でもでも私、自分に自信がなくて」


勇者
「いいのいいの! 空は青いんだから!」


町娘
「でもでも私、対人恐怖症だし」


勇者
「いいのいいの! 相手はモンスターだから! 俺も人じゃないし!」


町娘
「でもでも私、自分のベッドじゃないと眠れないし」
 

勇者
「いいのいいの! 君のベッドも背負っていくから!」


町娘
「でもでも私、お母さんの手料理じゃないと食べられないし」


勇者
「いいのいいの! 君のお母さんも連れていくから!」


町娘
「でもでも私、町の酒場で働いてて、私がいなくなるとみんな困るし」


勇者
「いいのいいの! 酒場ごと持っていくから!」


町娘
「でもでも私、学校にもいかないといけないし」


勇者
「いいのいいの! 1日6時間性教育してあげるから!」


町娘
「でもでも私、実は魔王側の人間だし」


勇者
「いいのいいの! 俺もダークサイドだから!」


町娘
「でもでも私、飼(か)っている犬が心配で」


勇者
「いいのいいの! 俺が代わりに餌(えさ)食(た)べるから!」


町娘
「でもでも私、今読んでる小説の続きが気になっていて」


勇者
「いいのいいの! それ書いてるの俺だから!」


町娘
「でもでも私、最近ストーカーに付きまとわれてるみたいで」


勇者
「いいのいいの! それ俺だから!」


町娘
「でもでも私、毎晩誰かが枕元(まくらもと)に立っている気がするの」


勇者
「いいのいいの! それも俺だから!」


町娘
「でもでも私、毎日家に来る小鳥に餌あげないといけないし」


勇者
「いいのいいの! それも俺だから」


町娘
「でもでも私、酒グセが悪くて酔(よ)ったら暴力的(ぼうりょくてき)になるの」
 

勇者
「いいねいいね! もっと殴(なぐ)って!」


町娘
「でもでも私、実は顔がアンパンで出来てるの」


勇者
「いいのいいの! 俺も愛と勇気と下心で出来てるから!」


町娘
「でもでも私、昨シーズン防御率(ぼうぎょりつ)3.54 で6勝12敗だったし」


勇者
「いいのいいの! ヤクルトならエースだから!」


町娘
「でもでも私、水に濡(ぬ)れると男になるの」


勇者
「いいのいいの! 俺どっちでもいけるから!」


町娘
「でもでも私、毎晩(まいばん)髪(かみ)が1m伸びるの」


勇者
「いいのいいの! 俺も鼻毛が1日116m伸びてるから!」


町娘
「でもでも私、実は火星人だし」



勇者
「いいのいいの! 俺もヌベードゥ星人だから!」


町娘
「……分かりました。そこまで言うなら私、勇者さんについて行きます!」


勇者
「本当か!?」
 

町娘
「はい! じゃあ彼氏も連れていきますね」


勇者
「帰れ」



終わり