ざわつくスーパーマーケットはこれから開店の時間だった。愛香は、千晃の叔母の万智子ともに赤いエプロンをつけて、出勤していた。ほうきを持って、自動ドア付近の玄関掃除に夢中になっていた。
「白崎さん、それくらいでいいので棚卸作業に入ってもらっていいですか?」
パート勤務のベテラン大場裕美子が声をかけてきた。お店が開店するとあって、スタッフは全員慌ただしく動いていた。
「あ、はい。今行きます」
愛香は素直にほうきを掃除ロッカーにしまって、覚えたての棚卸作業に入った。
「このカップラーメンコーナーのおつとめ品をこのかごに入れて、新商品をこの棚にお願いします」
「はい。わかりました」
「終わったら、私に声かけてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
新人のため、仕事の進め方がおぼつかないのと気にかけてくれていた。すぐにお礼を言うくせが出てしまう。
「別に大したことしてないから大丈夫よ。がんばって」
そう言って、裕美子は別な作業場へ移動した。愛香は黙々と、作業に取り掛かった。新商品としておすすめの棚にあげていたカップ麺がなかなか売れないものがあった。通常の味よりも挑戦した味だったせいか、お客さんは手を出しにくかったようだ。愛香は食べたことがなかったが、おつとめ品価格なら買って帰ろうかなと思ってしまう。
店内のアナウンスが開店のお知らせと今日の特売を連絡していた。すぐに切り替わり、今流行りの音楽が鳴り始める。ついつい、鼻歌が出て来る。味噌味としょうゆ味なら味噌かなと思いながら、棚にどんどん並べて行った。いつの間にか、棚に目を向けていてお客さんが近づいているのに気づかなかった。
「いらっしゃいませ」
と小さな声で挨拶すると、じっと顔を見られていた。
「あれ、白崎?」
高校生だろうか制服を着た男子がじろじろと見て来る。数カ月前は自分も高校生だ。同じはずなのに、遠い感じに思えた。
「え?」
「俺、俺だよ。小野寺暁斗」
「ん? 小野寺くん?」
うっすらと覚えている学校の出来事。体育祭委員会に入っていた。同じ委員会にともに活動していた。同級生の小野寺暁斗だった。
「なんで、ここにいるの?」
「えっと……学校辞めたから。働いてるんだ」
「ふーん。そうなんだ。突然、退学したからびっくりしたけど。元気で良かった」
心配されていたんだと思うと、少し頬が赤くなる。嬉しくなった。
「これ、うまいのかな」
暁斗は、おつとめ品のカルボナーラ味のラーメンを持ちあげた。
「あ、それ。すごい挑戦した味だよね。パスタなのかラーメンなのか」
「うん。普通に気になるけど。まずかったらどうしようっていう心配でもある」
「カルボナーラは美味しいんだけどね」
「うん」
しばし沈黙してから、愛香が話す。
「小野寺くんはなんでここに? 学校から遠いよね」
「陸上の遠征に近くの西高校来てた。今休憩時間。お昼買いに来た。ほかの部員はあっちにいた」
暁斗は、駄菓子コーナーで盛り上がっている愛香の名前の知らない同級生部員を指さした。
「駄菓子じゃんね」
くすっと笑う。
「お弁当のほかに買うらしいよ」
「そうなんだ」
「……また来るな。んじゃ」
暁斗は、手を振って去って行った。愛香は、何も反応することができずにただぼんやりと暁斗の方を見ていた。高校生はいいなぁと何だかうらやましく感じた。楽しい時間過ごしていたなと思い出す。友達との関わりが懐かしい。菊地陽葵は今頃何をしているのだろうかとスマホのライン友達リストから探し始める。何をメッセージ送るか考えるのに休憩時間ではまとめきれなさそうだ。送ろうとした画面を開いたが、すぐに閉じた。愛香は、なぜか心が落ち着かなかった。
「白崎さん、それくらいでいいので棚卸作業に入ってもらっていいですか?」
パート勤務のベテラン大場裕美子が声をかけてきた。お店が開店するとあって、スタッフは全員慌ただしく動いていた。
「あ、はい。今行きます」
愛香は素直にほうきを掃除ロッカーにしまって、覚えたての棚卸作業に入った。
「このカップラーメンコーナーのおつとめ品をこのかごに入れて、新商品をこの棚にお願いします」
「はい。わかりました」
「終わったら、私に声かけてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
新人のため、仕事の進め方がおぼつかないのと気にかけてくれていた。すぐにお礼を言うくせが出てしまう。
「別に大したことしてないから大丈夫よ。がんばって」
そう言って、裕美子は別な作業場へ移動した。愛香は黙々と、作業に取り掛かった。新商品としておすすめの棚にあげていたカップ麺がなかなか売れないものがあった。通常の味よりも挑戦した味だったせいか、お客さんは手を出しにくかったようだ。愛香は食べたことがなかったが、おつとめ品価格なら買って帰ろうかなと思ってしまう。
店内のアナウンスが開店のお知らせと今日の特売を連絡していた。すぐに切り替わり、今流行りの音楽が鳴り始める。ついつい、鼻歌が出て来る。味噌味としょうゆ味なら味噌かなと思いながら、棚にどんどん並べて行った。いつの間にか、棚に目を向けていてお客さんが近づいているのに気づかなかった。
「いらっしゃいませ」
と小さな声で挨拶すると、じっと顔を見られていた。
「あれ、白崎?」
高校生だろうか制服を着た男子がじろじろと見て来る。数カ月前は自分も高校生だ。同じはずなのに、遠い感じに思えた。
「え?」
「俺、俺だよ。小野寺暁斗」
「ん? 小野寺くん?」
うっすらと覚えている学校の出来事。体育祭委員会に入っていた。同じ委員会にともに活動していた。同級生の小野寺暁斗だった。
「なんで、ここにいるの?」
「えっと……学校辞めたから。働いてるんだ」
「ふーん。そうなんだ。突然、退学したからびっくりしたけど。元気で良かった」
心配されていたんだと思うと、少し頬が赤くなる。嬉しくなった。
「これ、うまいのかな」
暁斗は、おつとめ品のカルボナーラ味のラーメンを持ちあげた。
「あ、それ。すごい挑戦した味だよね。パスタなのかラーメンなのか」
「うん。普通に気になるけど。まずかったらどうしようっていう心配でもある」
「カルボナーラは美味しいんだけどね」
「うん」
しばし沈黙してから、愛香が話す。
「小野寺くんはなんでここに? 学校から遠いよね」
「陸上の遠征に近くの西高校来てた。今休憩時間。お昼買いに来た。ほかの部員はあっちにいた」
暁斗は、駄菓子コーナーで盛り上がっている愛香の名前の知らない同級生部員を指さした。
「駄菓子じゃんね」
くすっと笑う。
「お弁当のほかに買うらしいよ」
「そうなんだ」
「……また来るな。んじゃ」
暁斗は、手を振って去って行った。愛香は、何も反応することができずにただぼんやりと暁斗の方を見ていた。高校生はいいなぁと何だかうらやましく感じた。楽しい時間過ごしていたなと思い出す。友達との関わりが懐かしい。菊地陽葵は今頃何をしているのだろうかとスマホのライン友達リストから探し始める。何をメッセージ送るか考えるのに休憩時間ではまとめきれなさそうだ。送ろうとした画面を開いたが、すぐに閉じた。愛香は、なぜか心が落ち着かなかった。