私はごく普通の魔女。今日も魔法のスキルを高めつつ街を旅していると、突然1人の少女がこちらに向かって走ってきた。その少女を見ると、ひどくボロボロな格好で、今にも倒れそうなほどだった。だけどその見た目の割には生き生きした顔で、不思議なくらい元気そうだった。私を見るなり、その少女はこちらに突拍子もないお願いをしてきた。

 「お姉さん、魔女なんだよね!?その格好」

 「え、ええまあ…。」

 「だったらさ、魔法であたしを攻撃してよ!」

 「…は?」

 私は少女の言葉を理解するのに20分ほどかかった。攻撃してほしい…?このマゾ女は何言ってるんだと思いつつも、私は事情を聴くことにした。しかし少女は…

 「そんなのいいから!とにかくあたしを魔法で痛めつけてほしいの!」

 ドン引きしつつも、私は少女を問い詰める。しかし少女はなかなか引き下がらない。

 「あたしを日頃のうっぷん晴らし用のサンドバックだと思って痛めつけて!今までも他のお友達にもそうして殴ってもらったの。」

 「…。」

 よし逃げよう。そうしよう。…と思ったが。少女はあまりの速さで飛んで逃げようとする私の手を掴んだ。こんな小さな体のどこからこんな音速を出した…?

 「逃げようとしたって無駄だよ?あたしは自分を痛めつけてくれるまでは、魔女も逃がさないんだから!」

 「…。」

 もう、仕方ない。こうなったらとことんまでこの少女をいたぶってやろう。覚悟しろマゾ女よ。

 「えい!」

 「きゃー!あつい!でもいいいいい!」

 私はありったけの力を込めて、炎魔法で少女を攻撃した(焼け死なない程度に)。それでもけっこうな威力のはずだったのだが、少女はどこか嬉しそうだった。ほんとにどうなってるんだこの女は…。そう思っていると、少女はさらに魔法攻撃を要求してきた。

 「どうしたの魔女さん!もっともっと!」

 「よし、それなら…これはどうですか!?」

 「いやあああああ!しびれるううう!」

 次はとびきり痛い電気魔法を浴びせた。傍から見れば地獄のような光景なのに、少女はこれまた嬉しそうな表情だった。さすがにこれだけやればふらふらになって倒れるだろう。…ところが少女は不思議な事に攻撃を受けるほどにピンピンしていき、気のせいか筋肉までもが大きくなっているように見えた。

 「ありがとう魔女さん!あたしはこれで十分強くなれた!すっごくむきむき!」

 「そ、それは良かったです…。ははは」

 何の目的でこんなことに付き合わされたのはわからないけど、とりあえず少女が嬉しそうだったので良かった(?)

 「これであたしはお友達にお返しができる!それじゃあ行ってくるね!」

 「え、行くって、どこへ…」

 「あたしを今まで殴ってくれたお友達への、お礼だよ!またね魔女さん!」

 「…。」

 それから少女が去っていき、最後に少女が言い残した言葉について考えていた。そしてようやく少女の言っていたことを理解した私は青ざめ、大きな罪悪感に見舞われた。

 「私、とんでもないことをしてしまったかも…。」