『ねーねー、今日も遅いの? ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?』
寝る前に布団の中で愛しの彼にメッセージを送り、わたしの多忙な一日は終わる。それでも、わたしなんかよりよっぽど彼は忙しい。アイドルの現場が全部終わった後に、事務所で夜遅くまで残業をしていることが多かった。
夕方まで同じ現場に居たにも関わらず、彼との時間が全然足りない。
ここ数日のスケジュールは、MV撮影に雑誌のインタビュー、ライブに向けてのダンスと歌のレッスン。新人アイドルにしてはかなり仕事にも恵まれている。
多忙なせいでショウくんとゆっくりする時間がないのだが、その仕事を取ってきてくれるのもマネージャーであるショウくんなのだ。
喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからない。アイドルとしては当然嬉しいはずなのに、乙女心は複雑だ。
「……既読、つかないなぁ」
人目のある場所での仕事用の顔じゃなく、担当アイドルの内の一人としてじゃなく、朝の一時のような、わたしだけの彼がもっと欲しい。
もちろん、モーニングコールもマネージャーの仕事の一環だとわかっている。送り迎えの助手席も、わたしの特等席じゃないことなんてわかっている。
それでも、恋を歌うアイドルだって、少しくらい夢見ていたいのだ。
「ショウくん……」
新曲のラブソングのデモを聴きながら、思い浮かぶのは彼のこと。疲れた身体に恋しさが染み渡り、つい連投してしまったメッセージ。
既読がついたら、労いの言葉を掛けようか。そのあと明日の仕事の相談でもしてみようか。それとも、素直に恋しさを口にしてしまおうか。
聞きたいことがある、なんてメッセージには書いたけれど、これと言って決めていないのだ。もっともらしい理由を付けたかっただけ。
「……構ってちゃんだなぁ、わたし」
わたし達のために夜遅くまで頑張ってくれている彼に、迷惑はかけたくない。それなのに、用事がないと話しかけるのもままならないこの関係が、もどかしかった。
「はあ……まだ忙しいのかな。それとも寝ちゃった?」
暗い寝室のベッドの上で何も変わらない画面に一喜一憂する今のわたしは、可愛い衣装もばっちりメイクも、完璧な笑顔も、アイドルとしてのキラキラを全部脱ぎ捨てた、一人の恋する女の子だ。
アイドルのモカじゃない。夜の片隅で一人蹲る、今この瞬間の『ただの萌歌』を、彼に見つけて欲しかった。
「早く、わたしに気付いてよ……」
彼への気持ちを自覚してからは、恋にときめく朝は苦手じゃなくなった。
その代わり、彼と会えない夜の寂しさが苦手になった。
暗闇に浮かぶ光に何度も指を滑らせて、表示される愛しい名前を見つめる時間。
日毎に膨らむ恋しさの中、朝になればまた聞ける声を想いながら、それでもたった一言を待ち続ける長い夜。
夜が来る度に、彼への気持ちを、どうしようもない切なさと共に諦めようとした。
それなのに、朝が来る度にまた、どうしたって彼に恋をしてしまうのだ。
そして今日もわたしは一人ラブソングを口ずさみながら、静かに更けていく夜を、そっと恋に焦がした。
寝る前に布団の中で愛しの彼にメッセージを送り、わたしの多忙な一日は終わる。それでも、わたしなんかよりよっぽど彼は忙しい。アイドルの現場が全部終わった後に、事務所で夜遅くまで残業をしていることが多かった。
夕方まで同じ現場に居たにも関わらず、彼との時間が全然足りない。
ここ数日のスケジュールは、MV撮影に雑誌のインタビュー、ライブに向けてのダンスと歌のレッスン。新人アイドルにしてはかなり仕事にも恵まれている。
多忙なせいでショウくんとゆっくりする時間がないのだが、その仕事を取ってきてくれるのもマネージャーであるショウくんなのだ。
喜んでいいのか、悲しんでいいのかわからない。アイドルとしては当然嬉しいはずなのに、乙女心は複雑だ。
「……既読、つかないなぁ」
人目のある場所での仕事用の顔じゃなく、担当アイドルの内の一人としてじゃなく、朝の一時のような、わたしだけの彼がもっと欲しい。
もちろん、モーニングコールもマネージャーの仕事の一環だとわかっている。送り迎えの助手席も、わたしの特等席じゃないことなんてわかっている。
それでも、恋を歌うアイドルだって、少しくらい夢見ていたいのだ。
「ショウくん……」
新曲のラブソングのデモを聴きながら、思い浮かぶのは彼のこと。疲れた身体に恋しさが染み渡り、つい連投してしまったメッセージ。
既読がついたら、労いの言葉を掛けようか。そのあと明日の仕事の相談でもしてみようか。それとも、素直に恋しさを口にしてしまおうか。
聞きたいことがある、なんてメッセージには書いたけれど、これと言って決めていないのだ。もっともらしい理由を付けたかっただけ。
「……構ってちゃんだなぁ、わたし」
わたし達のために夜遅くまで頑張ってくれている彼に、迷惑はかけたくない。それなのに、用事がないと話しかけるのもままならないこの関係が、もどかしかった。
「はあ……まだ忙しいのかな。それとも寝ちゃった?」
暗い寝室のベッドの上で何も変わらない画面に一喜一憂する今のわたしは、可愛い衣装もばっちりメイクも、完璧な笑顔も、アイドルとしてのキラキラを全部脱ぎ捨てた、一人の恋する女の子だ。
アイドルのモカじゃない。夜の片隅で一人蹲る、今この瞬間の『ただの萌歌』を、彼に見つけて欲しかった。
「早く、わたしに気付いてよ……」
彼への気持ちを自覚してからは、恋にときめく朝は苦手じゃなくなった。
その代わり、彼と会えない夜の寂しさが苦手になった。
暗闇に浮かぶ光に何度も指を滑らせて、表示される愛しい名前を見つめる時間。
日毎に膨らむ恋しさの中、朝になればまた聞ける声を想いながら、それでもたった一言を待ち続ける長い夜。
夜が来る度に、彼への気持ちを、どうしようもない切なさと共に諦めようとした。
それなのに、朝が来る度にまた、どうしたって彼に恋をしてしまうのだ。
そして今日もわたしは一人ラブソングを口ずさみながら、静かに更けていく夜を、そっと恋に焦がした。