「じゃあ、私からのお願いは」
凛先輩は一度言葉を切り、空を見上げた。
「線香花火みたいに生きること。」
「それって…どう言う生き方ですか。」
僕は、約束という言葉を線香花火みたいだなと思っていた。線香花火みたいな生き方ってなんだろう、と僕が思っていると先輩はにこにこして、僕を見ていた。
「後輩ちゃん、お願い聞いてくれるよね。」
「うーん、ちょっと難しいですね。線香花火みたいな生き方がどういう生き方なのか、僕にはわからないです。」
「そっか。じゃあ、それを探して、線香花火みたいに生きてね。」
「なんで、そんなことを言うんですか。何か、僕に隠してることあるんですか。」
「んー、どうだろうね。」
と言い、ニヤッと笑いながら寝転んだ。そして、手で僕も寝転ぶことを促された。
「ほら、後輩ちゃん。空がきれいだね。」
「そうですね…本当に今日はどうしたんですか。なんか、凛先輩らしくないですよ。」
「あそこに夏の大三角があるよ。」
そう言って空を眺める凛先輩の横顔がとても儚く見えて、僕は何も言えなくなった。長い沈黙が続いた。それでも、夜空は動いていく。
「ねえ、後輩ちゃん。このまま、時間が止まれば良いのにね。」
長い沈黙を破ったのは凛先輩だった。
「もし、このまま時間が止まったら僕とずっと二人きりになりますよ。」
「いいよ、それでも。」
「じゃあ、夜空が動かなくなりますよ。」
「それは、ちょっと嫌だな。明日の空を見たい人が、一時間後の空を見たい人が、一秒後の空を見たい人がいるかもしれないからね。」
「先輩は今の空をずっと見ていたいのですか。」
「んー、私は、『今日』と言う日が終わらないで欲しいかな。だって、後輩ちゃんがこんなにも私の相手をしてくれるんだからね。」
「あー、はいはい。」
「楽しくなかったのかい。」
「…楽しかったです。けど、凛先輩が我儘過ぎてちょっと大変でしたね。」
「面倒見の良い後輩ちゃんに恵まれて良かったよ。」
そのまま、僕らは夜空を眺めながら静かに笑い合った。