いつの間にかあたりは暗くなっていた。
「ねえ、後輩ちゃん。屋上行こ。」

 屋上のドアを開けると頭上には満天の星空が広がっていた。
「きれいだね、後輩ちゃん。」
凛先輩は笑いながら言った。凛先輩の笑顔を見ていると、ああ、これが最後なんだなとわかった。いつもと同じように笑っているのに、いつもと何かが違うということが僕には何故かわかってしまったから。
「凛先輩。」
「なあに、後輩ちゃん。」
「僕には線香花火みたいな生き方が分からないです。これから先も分からないかもしれません。けれど、これだけは確かです。凛先輩は線香花火の様でした。どんどんと大きくなってくるその玉を落とさないようにしっかりと膨らませ、たくさんの光を散りばめながら、いきなり消える。まさに凛先輩じゃないですか。でも、凛先輩は生きていない。だから、僕は線香花火みたいな『生き方』がわからないんです。」
僕の目から涙が溢れ、止まらなくなった。
「後輩ちゃん、わからなくてもいいよ。それでも、後輩ちゃんが思う線香花火みたいな生き方をしてみてよ。後輩ちゃんが線香花火みたいに光ってくれれば、私は絶対に後輩ちゃんを見つけられるから。」
凛先輩は優しくそう言った。別れの時間は近づいている。僕にはまだ言えてないことがある。
「凛先輩。僕は、凛先輩が好きです。いつも輝いている凛先輩が好きです。これから先も絶対に凛先輩のこと忘れません。だから、もしチャンスがあれば、僕に会いに来てくださいね。僕は、ずっと待ってます。」
凛先輩は驚いたようなそして、嬉しそうな顔をした。
「やっぱり、後輩ちゃんには叶わないな。わかった、約束だよ。」
『約束』その言葉は僕が一番嫌いな言葉だった。けれど今は一番期待できる言葉に変わった。
「ありがとうございました。」
僕がそう言うと、凛先輩はいつもの笑顔を見せた。僕が大好きな笑顔だった。そのまま、凛先輩は夜空に輝いて消えていった。
ありがとう、僕はずっと心のなかで思いながら凛先輩を見送った。