「私はね、ここの、この高校の生徒だった。」
「今もそうじゃないですか。」
「まあまあ、人の話は最後まで聞くべし。せっかちな後輩ちゃんだね。」
少しでも、僕を安心させるかのように小さく笑った。



 私は、この高校に通っていた。三年生の先輩が卒業した日、天文部の部員は私だけになった。部員を増やさないと廃部だと藤野先生に聞かされた。
「凛、このままだと天文部はなくなるぞ。」
私はどうにかしないといけないと思った。先輩たちから引き継いだこの部を廃部させてはいけないと思った。試行錯誤して、部員を集めようとした。ポスター、放送、その他にもいろいろなイベントを企画した。しかし、部員は増えなかった。どうすれば部員は増えるのか。どうすれば廃部させずに済むのか。いつも考えていた。
 ある日、高校の屋上に忍び込んだカップルがそこで花火をしてキスをすると言うドラマを見た。その瞬間私は「これだ」と思った。次の日学校に着いたらすぐに藤野先生のところに向かった。
「藤野ティー、私、屋上で花火をしたい。」
最初はもちろん却下された。屋上で花火なんて危なすぎるから。けれど私は折れなかった。
「お願い。本当にお願い。もしかしたら、これを機に部員が増えるかもしれないんだよ。もしかしたら、廃部にならずに済むかもしれないんだよ。だから、お願い、藤野ティー。」
私の熱意に押されたのか、藤野先生はこの件を会議に持っていってくれることになった。その日、私は浮かれ気分で帰り道を歩いていた。部員が増えたら何をしよう。みんなで合宿に行って、寝ずにずっと遊んで、空を見て、いつか恋をして…。
浮かれすぎていたのかもしれない。私は、自分に近づいてくるトラックに気づかなかった。凄まじい衝撃と共に、私の意識は暗闇にのまれた。
 気付いた時には、私は部室に佇んでいた。理由がわからず混乱していると藤野先生が部室に入ってきた。
「おま、お前。凛だよな。なんでここにいるんだよ。なんでだよ。」
いきなり藤野先生が取り乱したようにたくさんの質問をぶちまけてきた。
「ちょっと待ってよ、藤野ティー。どうしたのってば、そんなに慌てて。」
「だってお前、三週間前に…死んだんだよ。トラックに轢かれて死んだんだよ。でも、未練残ったんだな。俺も悔しかったよ…。だから、天文部の廃部の件は俺が断固拒否して無かったことにした。いや、五年の猶予を貰った。あと5年で必要部員を揃えればいいんだよ。だから…、もう……。」
藤野先生がなんて言おうとしていたのか私にはわかった。きっと成仏しろ的なことを言いたかったんだと思う。早くゆっくり休め的なことを言いたかったんだと思う。だから私はこう言った。
「じゃあ、私がたくさん部員集めるね。部員が集まるまで私は、死んでも死なないから。」
藤野先生は呆れて苦笑した。
「やっぱり、お前には叶わないな。」
私は満面の笑みを返した。
 その日から、私は部員になってくれる人を探した。でも、私が死んだと知っている人には声をかけることは出来なかった。次々に人が卒業していく。気がつけば周りは知らない人だらけだった。私が死んでから四年が経った。後一年しかない。そんな時、私は運命的な出会いをした。図書館で熱心に宇宙の本を読んでいる子を見つけたんだ。だから私は逃がしてはならないと思った。
「ねえ、君は星が好きなのかい。」

 その子は、敬はすぐに天文部に入部してくれた。
「僕、天文部があるって知らなかったです。」
私には始めての後輩ができた。そして、敬に天文部を託せるか考えるようになった。最初のうちはこいつには無理だなと思っていたのに、いつの間にかこいつには任せれるかもしれないと思い始めていた。だって、敬は天文部部長の私よりも、星を愛していたから。そして、あの花火をした夜に
もう敬に任せられると思った。私はいなくても大丈夫。敬なら、私が出来なかった部員を増やすことだってできるはず。じゃあ、私はもういないほうが良い。数日考えて、私は消えることにした。もともと、私はここにいちゃいけなかったから。行くべき場所に行こうと思った。でも、ずっと一緒にいた藤野先生には私の考えは見透かされていた。藤野先生に説得され、敬に最後に本当のことを全て教えることにした。そして私は、敬を待っていた。


話終わると少し悲しそうな顔でも達成感のある顔で僕を見た。
「これが私の本当の話。」
「嘘だ。嘘だ、嘘だ。凛先輩が死んでいるなんて、嘘だ。」
僕は、凛先輩が死んでいるという事実に耐えられなかった。きっと、凛先輩が僕をからかうために嘘をついていると思いたかった。
「嘘じゃないんだよ、後輩ちゃん。」
でも、凛先輩の本気な顔と一致しすぎているつじつまがこの話が本当のことだと物語っていた。それを悟った途端、僕の体は熱くなり、勝手に涙が溢れてきた。泣くことしかできない僕の背中を、凛先輩はずっと擦り続けてくれた。