「華夜さん…?」


「榎本さんと、短い間だったけど出会えてよかったです。…最後に一つだけ、わがままを言ってもいいですか?」



こんなこと私が言う資格なんてないとわかっている。


わかっているけど…。



「今夜をどうか覚えていてください。榎本さんの記憶の片隅にいられれば、それだけでいいから」



今夜が終わっても、先生には“私”のことを覚えていてほしかった。


たとえ嘘だらけの私だったとしても、先生が好きになってくれたことだけは本当だから。



「そして、とびっきり素敵な人を見つけてください。いつ恋に落ちるかなんて誰にもわからないから。たった一人、愛する人を見つけられればそれでいいじゃないですか。焦らなくたって、榎本さんにはきっと素敵な人が現れる。私はそう信じてます」



まるで魔法みたいな一夜だった。


見たことのない先生の新しい顔をたくさん知れて、ドキドキして、すごく楽しかった。


私はこの夜を絶対に忘れることはない。