なんて……。そんなこと言っても、彼は私の恋人にはなれないから。
彼の幸せを見守ることしか出来ない。
タクシーが加賀美さんの家の前に到着すると、私は加賀美さんを抱き抱えながら、加賀美さんに「加賀美さん、着きましたよ」と声をかける。
「んん……」
加賀美さんには、私の声が聞こえているのか分からない。
「加賀美さん、玄関のカギはありますか?」
「カバンの中……」
「カバンの中ですね。 ちょっと失礼しますよ」
加賀美さんのカバンの中から、家のカギを探し出す。
「あった」
カギを開け、加賀美さんを玄関に座らせ靴を脱がせる。
「加賀美さん、寝室どこですか?」
「ん……そっち」
指差された方のドアを開けると、加賀美さんを再び抱き抱えてベッドへと運ぶ。
「加賀美さん、ベッド着きましたよ」
「ん……ベッド……?」
虚ろな目で私を見る加賀美さんに、私は「加賀美さん、お水飲みますか?」と聞く。
「水……飲みたい」
「ちょっと待っててくださいね」
一旦リビングに行くと、キッチンでお水を入れて加賀美さんに渡す。
「加賀美さん、お水ですよ」
「ん……ありがとう、秋穂ちゃん」
お水を飲む加賀美さんの姿を見ながら、私は思わず加賀美さんに触れそうになってしまう。
「もう一杯飲みますか?」
「ん、大丈夫……」
コップをテーブルに置くと、加賀美さんはスーツのジャケットを脱ぎ始める。