「加賀美さんと結婚する奥様は、きっと幸せですね」

 私がそう伝えると、加賀美さんは「え?そうかな」と焼鳥を口にする。

「だって私が好きになった、加賀美さんですよ? 自信、持ってください」

「秋穂ちゃん、ありがとう。本当に秋穂ちゃんは、いつも優しいね」

 私は……優しいのかな。 きっと、優しくなんてない。

 本当は加賀美さんのことを、奪われたくなんてない。私が奥様から奪いたいくらいだ。
 でもそんなことをしたら、加賀美さんに嫌われてしまうような気がして、出来そうもない。

「ビールおかわりします?」

「じゃあもらおうかな」

 加賀美さんとこうして飲むのは、楽しい。仕事の愚痴を聞いてくれたりもするし、時にはアドバイスもくれる。
 加賀美さんがいるおかげで、私はいつも頑張れている。

「奥様って、どんな人ですか?」

「そうだな……。明るくて優しい人かな。なんていうか、人柄がいい感じ」

「そうなんですね」

 人柄がいい感じ……か。きっと加賀美さんには、お似合いの人だ。
 私が入る隙間なんて、なさそうだ。
 

 そんなことを考えながら飲んでいたら、加賀美さんはいつの間にか酔ってしまったようで……。

「加賀美さん……大丈夫ですか?」

「ん……大丈夫大丈夫」

 会計を済ませてお店を出てタクシーを拾おうと、タクシー乗り場に加賀美さんの身体を支えて向かう。

「加賀美さん、今タクシー呼びますね」