「生でいいですか?」

「もちろん」

 メニューを開き、それぞれ生ビールを二つ注文した。

「加賀美さん、結婚おめでとうございます」

「ありがとう、秋穂ちゃん」

 生ビールがすぐに運ばれてきたので、二人で乾杯した。

「んー、美味しいですね」

「美味いね。やっぱり仕事終わりのビールは最高だね」

「ですね」
 
 加賀美さんに気持ちを伝えたけど、加賀美さんがいつも通りに接してくれるおかげで、私もいつも通りの私で接することが出来ている。
 そんなありがたいことはない。 加賀美さんが、気まずくならないようにしてくれている。

「なんか適当に、頼みます?」

「そうだね。頼もうか」

 タブレットからいくつかのメニューを注文して、テーブルに届くのを待った。

「加賀美さん、入籍いつするんですか?」

「一週間後だよ」

「じゃあ、本当にもうすぐですね」

 一週間後には、加賀美さんは結婚してしまうのか……。
 もう加賀美さんと二人で会うのは、出来なくなるんだな。
 喜ぶべきことなのに、素直に喜べない。
 
「加賀美さん、奥様のこと、幸せにしてあげないとダメですよ」

「分かっているよ。……俺はそのつもりで、結婚するし」

 加賀美さんが結婚してしまうなんて、まだ受け入れられない。 どうしても、受け入れられない。
 本当は、結婚するなんてイヤ。加賀美さんのことを好きなのは、絶対に私の方だ。