加賀美さんは「ありがとう。嬉しいよ」と微笑むと、「今日、さっそくどうかな?」と聞いてくれる。

「はい。ぜひ」

 私は今日で、加賀美さんのことを諦める。 加賀美さんが幸せになるんだから、諦めないとイケない。
 だからこれは、私の出来る精一杯の強がりだ。 諦めるからこそ、最後に加賀美さんと一緒にいたい。
 そう思ってしまうのは、私のエゴなのかな……。

「お店、予約しておきますね」

「ありがとう。秋穂ちゃんは、本当に優しいね」

 ……いいえ、私は優しくなんてない。本当は、加賀美さんのことをすぐにでも奪いたい。
 婚約者なんかに、渡したくなんてない。 私のほうが、加賀美さんのことを好きな自信があるから。
 でも、加賀美さんの幸せを願うのが、私の一番の役目……だよね。

 
✱ ✱ ✱


「秋穂ちゃん」

「加賀美さん、お疲れ様です」

 仕事が終わった後、加賀美さんと駅前で待ち合わせをした。 加賀美さんは残業で、少し遅くなっていたけど、ちゃんと来てくれた。

「遅くなってごめん」

「いえ。予約してあるので、行きましょう」

「ありがとう」

 今日が、加賀美さんと一緒に飲む最後にすることにした。 加賀美さんが結婚したら、それも出来なくなっちゃうし。
 だから今日は、とにかくたくさん加賀美さんと話をしたい。 加賀美さんを、今日だけは自分のものにしたい。
 加賀美さんとの、これが最後の思い出。