(あっ、まただ............キモチワルイ、)



そう思うのに声が出ないのはなんでだろう?



いつもの帰りの電車の中で、
全く知らない人にお尻を触られて。



めちゃくちゃ嫌だから、
声を出さなきゃいけないって、頭では分かってるっ。



(でもっ、声が出せない...............っ、)



犯人は決まって同じ人で、
もしかしたら、付き合っているとでも思われているのかもしれなくて...............



きっと、誰も助けてくれないのかもしれない。



この痴漢が始まった最初の頃は、心の中で、何度も、〝助けて〟って思って周りを見た。



だけど、所詮、他人は他人。



みんな、見て見ぬフリで、
誰も助けてくれようとしなくって。



私、堀川沙耶(ほりかわさや)は。



いつしか、
──────期待することをやめた。