言いたくても、やりたくても、できないこと。


 最近は本当に便利な時代になったな、と思います。
 僕が若い頃、前髪やまつ毛、メイクなどを気にする女子は、折り畳み式の手鏡で確認しておりました。

 しかし、現代ではスマートフォンが普及し、大半の若者は一台持っていると思います。
 高性能なスマホのカメラがあれば、”自撮りモード”で自身の顔が確認できます。
 
 ある日のこと、僕は繫華街の大きな交差点で、信号が変わるのを待っていました。
 反対側に立っている、ひとりの女子高生が目に入りました。
 なぜその子に目が行ったかと言うと、先ほどから仕切りに同じ行動を続けているからです。

 スマホのカメラを鏡代わりに、何度も前髪をいじりまくっていました。
 失礼ですが、風も強い日でしたし、あまり変わっていない気がします……。

 そして信号が青になり、大勢の人が交差点を渡ろうとするのですが。
 先ほどの子はずっと髪型を触り続けています。
 視線はスマホに向けたまま、器用に歩くのです。

 僕とすれ違っても、前髪を触り続けていました。
 気になった僕は、交差点を渡ってから、振り返りました。
 しかし、その子は渡っても尚、前髪を触り続けています。

 この瞬間、僕は思った。
 急いで彼女の元へ走り、バッグからあるものを差し出す。

「はぁはぁ……あの! ちょっといいですか!?」
「え……なんでしょう?」
「そんなに前髪が気になるなら、僕が使っているハードワックスをどうぞ! ガッチガチに固まるよ!」
「……」

 結果、僕は通報された。

 最近のスマホは、画面がどんどん大きくなっているように感じます。
 僕が若い頃なんかはガラケーで、画質も悪く、画面も小さいので。
 写真撮影をしても画素が粗く、誰かわからない写真や動画が多かったです。

 しかし、今は技術が進歩して、高画質のカメラで撮影できますし。
 薄く軽いスマホをサクサク動かせます。

 僕がバスに乗っていた時の話です。
 前の方の席で、僕はひとりで座っていました。
 音楽を聴きながら窓の景色を見ていたら、前に座っていた若い女性がスマホを起動していました。

 それだけ彼女のスマートフォンが大きいということです。
 次の瞬間、僕はドキッとしました。
 彼女がカメラを起動して、”自撮りモード”にしたからです。

 女子大生ぐらいの女の子と、後ろに座っているおっさんの僕が、一つの画面に映し出されたのです。

(気まずい……)

 その子はどうやら、前髪が気になっているようで、手で整えていました。

 この瞬間、僕は思った。
 
(ひょっとして、この子は……。僕とツーショットを撮りたいのかもしれない)

 そう感じた僕は、身を前に乗り出します。
 後ろからピースをして、苦笑いをするおっさんに気がついた女の子が叫びます。

「ひいぃっ! なんなんですか!?」
「え? 僕とツーショットを撮りたいんですよね?」
「そんなわけないでしょ!?」
「……」

 結果、僕は通報された。

 僕は生まれつき、お腹が弱いです。
 ちょっとでも、油こいものや辛い料理を食べたら、腹がゴロゴロと言います。
 そのため、汚い話ですが、いつもトイレを探すのが大変なのです。
 特に繫華街では……。

 女性向けの商業施設は、男子トイレの数が少ないのですが。
 清潔で最新のトイレが使用できるため、僕はよく使わせてもらっています。

 その日もお腹を痛めて、急いでトイレへ向かっていました。
 たまたまですが、僕が向かっているトイレの前には、女性向けの下着屋さんがあります。
 
 店の前に飾られているマネキンは、かなり目立ちます。
 セクシーなブラジャーとパンツが、着せられているからです。

(ふむ、スケベな下着だな……)

 などと、考えている場合ではありません。
 僕の腹が「早くトイレへ行け」とうるさいからです。

 その時、奥のエレベーターから、二人の若い女性が降りて来ました。
 彼女たちはどうやら、僕とは反対方向へ向かうようでした。
 すれ違いざま、ひとりの女性が僕へ指をさしてこう言ました。

「かわいい~!」

 それに同調するもう一人のお姉さん。

「わかる~ かわいいよねぇ!」

 この瞬間、僕は思った。
 
(ハッ! 最近、脱毛してお肌のメンテも欠かさないから、かわいいと思われたんだ!)

 お姉さんたちの話を聞いて、僕は足を止めました。
 そして、目の前の女性陣に叫ぶのです。

「ありがとぉ~! 最近、よく言われるんだよねぇ~」

「……え?」
「あの、下着のことなんですけど……」

 結果、僕は通報された。

 僕は生まれつき、肌が弱いです。
 そのため、皮膚科へ定期的に通っています。

 とある夏の日の出来事。
 暑くなってきたので、あせもや痒みなどの症状が酷くなりがちです。
 僕以外にもたくさんの患者さんで、待合室は溢れかえっていました。

 待合室でひとり座っていると、目の前に小さな赤ちゃんを連れた女性が現れました。
 お母さんは椅子に座って、赤ちゃんはベビーカーに乗っています。
 指をくわえながら、僕の方をじーっと見つめていました。

 こう見えて、僕は幼い子供にはモテる自信があります。
 何故だかわかりませんが、乳児から幼児までのお子さんにはよく見つめられたり、声をかけられるのです。
 ただ自我を持ち始めたお子さんには、嫌われるというか。
 「この人、気持ち悪い……」という、顔をされます。

 話が逸れました。
 いつものように、僕は黙って見知らぬ赤ちゃんと見つめ合います。
 あちらも話せないので、こちらも心で話すように心がけております。

 その時、待合室の出入り口から、二人の患者さんが入ってきました。
 ひとりは若い介護士の方で。もうひとりは車いすに座ったおばあさんです。
 介護士の方が受付をすませる間、僕と赤ちゃんのそばに車いすをとめていきました。

 おばあさんがベビーカーに気がついたようで。車いすから身体を起こして、こう言いました。

「うわぁ~ 可愛いかねぇ~ いくつぐらいかね?」

 この瞬間、僕は思った。

(なっ! 僕の可愛さがバレてしまったのか? ならば、ちゃんとお礼を言わないと)

 すかさず、僕は身を乗り出して、おばあさんにお礼をいう事にしました。大きな声で。

「いやぁ~ ありがとうございますぅ~! 今年で42才になるんですけど、アイドルを目指した方がいいですかね?」
「え? 私は、あんたじゃなくて、赤ちゃんのことを言っているのよ?」
「……」

 結果、僕は通報された。

 みなさんは、動画を撮影されたりしますか?
 僕はビデオカメラで、子供の行事などを撮影するぐらいです。

 一時期、子供がなりたい職業は「YouTuber」が1位でしたね。
 今も人気なのかもしれませんが……。

 動画撮影するにしても、色んなやり方があると思いますが。
 ここでも、スマホを扱われる方が多くなりました。
 軽いしポケットに入る。持ち運びやすいサイズですからね。

 あと、最近はショート動画というものが流行っているようで。
 繁華街を歩いていると、たまに手足をブンブン振って、一生懸命踊っている方を目にします。
 ただ見ているこちら側には、音が伝わってこないので驚きますが……。

 ある日、僕が繫華街のゲームセンターを歩いていた時のことです。
 ふと、ベンチに肩を並べて座っている、二人の女子高生が目に入りました。
 なぜかと言うと、そのファッションが奇抜だったからです。

 たまに見るのですが、どう考えても本物の制服せいじゃないだろう……と思えるぐらい生地が薄い。
 なんちゃってセーラー服を着ている子を見ます。
 多分コスプレだと思うのですが。それに高校生にしては化粧もバッチリしているし。

(双子コーデというやつだろうか?)

 そう思いながら、その二人の後ろを通り過ぎようとした瞬間でした。
 女の子のひとりが自撮り棒を持ち上げ、スマホをこちらに向けました。

「いえ~い!」
「ぴ~すぅ!」

(いかん! 動画の撮影中みたいだ……このままでは、おっさんの僕が映りこんでしまう)

 そこから、すぐさま離れようと思いましたが……。
 
 この瞬間、僕は思った。

(いや、彼女たちは僕も一緒に撮影して。バズりたいのだろう)

 今までの前科を考え、僕はその場で腕を組み、撮影が終わるのを待つ。
 ただしっかりアピールだけはしておくべきだと思い、肘の上でピースしておいた。
 ”未来の息子”へ別れの挨拶をする、”王子さま”のように……。
 
「あれ? なんか知らないおじさんが映ってない?」
「うわっ……控えに言ってキモっ」

 後日、身元が判明した僕は通報された。

 皆さんはお酒を飲まれますか?
 僕は大好きです……肝臓がぶっ壊れるほど。

 さて、話は変わりますが。
 
 「お酒は二十歳になってから……」

 という、どこかで聞いた決まり文句があるように。
 日本では、原則。20歳にならないとお酒を飲むこと、買うことはできません。
 これはタバコや成人向け作品も一緒ですが……。

 コンビニやスーパーでも必ず、店員さんに年齢を確認されると思います。
 どれだけ、年をとっても……。

 たまに年齢確認を省く方もいますが、ほとんどの店員さんは客である僕に聞いてきます。
 
 カゴの中にたくさんの酒を入れて、レジへ持っていくと。
 お姉さんが笑顔でお出迎えしてくれます。

「こんにちは、いらっしゃいませ!」
「あ、どうも……」
「お客様、マイバッグはお持ちですか?」
「持ってるっす……」

 そして、お姉さんは僕がカゴへ入れたお酒をスキャンします。
 会計をする前に、一言。僕へ問いかけます。

「お客様、大変申し訳ないのですが……年齢確認のために、ボタンを押してもらえますか?」

 するとレジ前にある、液晶パネルにとある選択肢が映し出されるのです。

『成人ですか? はい/いいえ』

 この瞬間、僕は思った。
 
(ハッ!? ひょっとして、このお姉さん。アラフォーの僕をめっちゃ若く見てる!?)

「あ、あの……僕って。いくつに見えます?」
「は?」
「だって、年齢を確認したいぐらい。僕が若く見えたんですよね?」
「お、お客様。これは誰にでも聞いている、ルールで……」
「教えてくださいよ!? 一体、何歳に見えるんですか? 17歳ぐらいですか!?」
「……」

 結果、僕は通報された。

 「リア充は爆発しろ!」

 なんて、言葉があるようにカップルを見たら、嫉妬してしまう時。ありますよね。
 でも、僕はもう40歳を超えてますし、妻と子供もおります。

 だから最近は、イチャついているカップルを見ても、イラつくことは少ないです。
 むしろ応援したいぐらいです。
 手を繋いでいるカップルがいたら、邪魔にならいように歩道から降りて、イチャつくのを促します。

 本当ならば、その時ニヤついて。
 
「まだヤッてないの?」
 
 と聞きたいのですが、理性でどうにか抑えています。


 とある繫華街の近くを、歩いていた時の話ですが。
 僕が小さな交差点で、信号が変わるのを待っていたら、突然ドシンと誰かが僕にタックルしてきました。
 いきなりのことだったので、僕は体勢を崩してしまいました。

 まあ僕の身体が大きいので、邪魔だったのかもしれません。
 それにしても、感じが悪いと思ったので、相手に視線を向けると。
 若い男女のカップルでした。

 かなり急いでいる様子で、早歩きでどこかへ向かって行きました。
 「ごめんなさい」などの一言も頂けなかったので、僕は少し苛立ちました。
 しかし、次の瞬間。僕の怒りはどこかへ消えてしまいます。

 なぜなら、彼氏さんが彼女さんの腰というか、ほぼお尻あたりをガッシリと掴んで離さず。
 ツカツカと音を立てて、ラブホへ向かって行ったからです。

(なるほどぉ~ そりゃ僕なんて目に入らないよね。でも、まだお昼の1時だよ?)

 とほくそ笑むのですが。
 
(ちょっと待てよ? あの彼氏さん、このままホテルへ直行する気か?)

 この瞬間、僕は思った。
 
(ダメダメ! 最高の時間は、最高の”アイテム”が必要だ!)

 そう思った僕は急いで、カップルの元へ駆け寄る。

「あ、あの、すみません!?」
「うわっ! な、なんすか……」
「そのままホテルへ行く気ですか? 良くないですよ!」
「何がですか?」
「”ホテルの”を使うより、コンビニとかで買った方が絶対良いですって! 高くても”薄い方”がいいですよ!」
「……」

 結果、僕は通報された。

 フェチズム……人間ならば、誰しも一つは持っているでしょう。
 
 僕はたくさんありすぎて、ここには全て書けませんが。
 一つだけなら、言えます。
 それは、”お尻”です……。

 突然の性癖暴露になりましたが。
 僕がスーパーへ買い物に行った時のことです。

 お酒が欲しかったので、酒コーナーを物色していると。
 近くで商品出しをしている、店員さんが見えました。

 床に正座してダンボール箱から、お酒を出して棚に入れています。
 人間、どうしても正座で座れば、ヒップラインが強調されます。
 この店員さんも長ズボンを履いてるとは言え、プリっとしたお尻が突き出ているように感じました。
 
 しかし、その店員さんのお尻がすごく良い形でして、思わず見入ってしまうほどでした。

 僕としては、別にその方のお尻を見たくて、見たわけじゃありません。
 視線を変えたら、たまたまそこにあったため、気まずくなりました。
 すぐに視線を変えようとしたその時でした。

「ふぅ……」

 店員さんがため息をつきました。
 気になった僕は、視線をお尻からゆっくり顔へ上げていきます。

「!?」

 その顔を見て、僕は驚愕しました。
 魅力的なセクシーヒップの持ち主は……男性だったからです。
 頭の薄いおじさまでした。

 しかし、お尻フェチの僕が、唸るほどのヒップでした。
 『良いものはいい』……母が教えてくれたことです。

 この瞬間、僕は思った。

(よし、ちゃんとこの人へ自分の気持ちを伝えよう)

 そう感じた僕は、そのおじさまに声をかけることにしました。
 
「あ、あのすみません。ちょっといいですか?」
「はい? なんでしょう?」
「男の僕が言うのも、なんですが……めっちゃスケベな尻をお持ちですね!」
「え……」
「ヒップ大会があれば、男性部門で優勝できると思いますよ!?」
「……」

 結果、僕は通報された。

 カスハラ……カスタマーハラスメントというものがあります。
 理不尽なクレーム、暴言など。
 人と接するお仕事をされている方は、とても大変だと思います。

 しかし、逆に店員さんから感じ悪くされたり、横柄な態度を取られると。
 とても怖いですし、軽く傷つきます。

 僕はよくコンビニで、ホットストナックを注文します。
 どれも安価で、出来たてを美味しく食べられますからね。

 昔から、鶏のから揚げが大好物でして。
 コンビニに限らず、色んな店で見かけたら、注文したり購入しては、味比べするのが大好きです。
 
 早朝に妻と二人でコンビニへ行き、買い物をしていたのですが。
 レジにいた店員さんは、夜勤明けで疲れていたのかもしれません。

 いつも通り、ホットストナックのコーナーへ向かうと。
 少し不機嫌そうな、女性の店員さんが立っていました。
 
 僕と妻が一生懸命、商品を選んでいたのですが。
 商品の前に、品名や値札がなにもついていません。
 これに僕と妻は困惑しました。

 から揚げと言っても、最近は色んな味があります。
 辛いものから、レモン味やペッパー味とか、たまにはチーズなんて。
 ですので、気になった僕は、先ほどの女性店員さんへ尋ねることにしました。

「あ、あの……すみません。このから揚げなんですけど、何のから揚げですか?」

 と質問したところ、女性店員さんは不機嫌そうにこう答えました。

「はあっ!? それ? からあげっ! ただのからあげ!!」

 その大きな声に僕は、恐怖から縮みあがってしまいました。

 どこか僕に落ち度があったのではないか? としばらく考えてみます。

(質問の仕方が悪かったのかな……? いや、特に悪いところは……)

 この時、僕は思った。

(はっ!? さっき店員さんが言ったことに意味があるんだ!)

(ただのからあげ……無料(ただ)のからあげってことなんだ!)

 その意味を知った僕は、店のカウンターへと入り込み、ホットストックコーナーの商品を手に取る。
 棚に並んでいたからあげを全て、マイバッグへぶち込んで、店から立ち去ろうとしたその瞬間。
 先ほどの女性店員さんが、声を荒げる。

「ちょっと! なにをやっているの!? 会計が済んでないでしょ?」
「え? だって、『ただのからあげ』って言ったじゃないですか」
「はぁ? 一体何を言って……」
「無料のから揚げとは、素晴らしいサービスですね!」
「……」

 この10分後、店にパトカーが到着した。