* * * *

 椅子に座る波斗先輩の膝に座ると、ゆっくり息を吐いてから顔を上げた。その途端、思わず目を見開いた。

「先輩、見て……星がきれい……。ねぇ、窓開けてもいい?」

 波斗先輩の返事を待たずに、私は衝動の赴くまま窓を静かに開ける。

「寒くない?」
「先輩といるから、暑いくらい」

 波斗先輩は私が落ちないように腰をしっかりと抱いたまま、胸の谷間に顔を埋めて肌を舐められるたびに、くすぐったくて体の奥が熱く疼き始めた。

「こんなにキレイな星を見ながらなんて、すごくロマンチック……」
「一応俺たち天文サークルだしね」
「絶対に忘れられない夜になったな……。先輩、ワガママ聞いてくれてありがとう……」

 私が言うと、波斗先輩は泣きそうな顔で微笑んだ。その表情に心を掴まれた私は、思わず自分から先輩にキスをした。そしてぼんやりと頭の中で、あることを考えていた。

 先輩は誰を思ったのかしら……。健先輩? それとも私……? そんな言葉をグッと飲み込んだ。

 私はーーやっぱりどうしたって波斗先輩のことしか考えられなかった。熱い吐息、汗ばむ肌、私を抱きしめる腕の強さ。むしろ千鶴ちゃんのことは全く考えずに済んだ。

 彼に抱かれ、私自身は彼に与えられる熱に身を任せ、心の傷を感じずに済んだ。

「素敵な夜だったな……」
「うん……そうだね」
「……じゃあ窓閉めるね」

 二人の最初で最後の夜はおしまい。また現実に戻るだけ。再びベッドに戻った私たちは、ゆっくりと目を閉じた。