いつかこの日が来ることはわかっていたの。だから覚悟だってしてた。

 あの人に恋をする彼女はいつもキラキラ輝いていたし、嬉しそうに笑ったり、悲しくて涙を流すのもあの人のためだったから。

 だから私は、自分の気持ちを彼女に打ち明けるつもりはなかったの。

* * * *

 大学二年の天文サークルの夏の合宿最終日。部員たちは外でのバーベキューを楽しみながら、和気あいあいと過ごしていた。

 しかしその最後の夜に、友人の千鶴(ちづる)ちゃんは私と美琴ちゃんに嬉しそうに頬を染めてこう言った。

「実はさっき大和(やまと)先輩に告白されてね、付き合うことになったの」
「えーっ! とうとう⁈ 良かったねー!」

 興奮しながら祝福する美琴ちゃんに対し、私は思わず言葉を失った。

 あぁ、とうとうこの日が来たんだーー胸が痛い、息が苦しい……涙が出そうになるのを必死に堪えて、精一杯の笑顔で千鶴ちゃんの方を向いた。

「おめでとう! 良かったね〜!」
「うん、ありがとう! これも応援してくれた二人のおかげだよ〜。でね、今夜は……その……大和先輩と一緒に過ごしてもいいかな……?」
「……いいけど、付き合って初日に体を許しちゃダメよ」

 お伺いを立てるような様子の千鶴ちゃんに対し、美琴ちゃんはしっかり釘を刺す。

「も、もちろん!」
「ならいいんじゃない? ねっ、紗世」

 二人が私の顔を見る。そんなこと聞かないでよ……そう心の中で思いながら、唇の端がピクッと震えた。

「……まぁせっかく合宿最後の夜だしね。私も美琴ちゃんと同意見かな」
「本当? ありがとう!」

 二人の言葉に千鶴ちゃんは満面の笑みを返したが、私はその笑顔を見るのが辛くて下を向く。

 大丈夫、わかってた。私じゃこんな顔にはさせられないものーー。でも今は涙を堪えるだけで精一杯だから、笑顔になれない私を許してほしい。

 そんな私の願いが通じたのか、千鶴ちゃんと美琴ちゃんの会話が盛り上がっていく。

「ごめん、ちょっと酔っちゃったみたいだから、あっちの方で休んでくるねー」
「えっ、一緒に行こうか?」
「ううん、大丈夫。ほら、まだまだお肉も残ってるし、二人はいっぱい食べててね」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよー」

 そう言い残すと、ホテルのすぐそばにある湖に向かって歩き出した。