すでに同窓会は始まっているようで写真が何点かグループトークに送られてきた。

知らない顔がたくさん並ぶ写真を見てもナニも楽しくない。すぐに通知を切った。

どうせ、私の参加なんか誰も期待してないはずだ。

何人もの人が私の横の自動ドアから店内へ入っては出てを繰り返す。幾度と聞いた入店チャイムはいつのまにかノイズキャンセリングされていた。



「…もしかして、志摩?」

不意に記憶の中ですり減るほど繰り返した声が不意に頭上から聞こえた。酒を飲みすぎたことによる幻聴かと思った。

「やっぱり、志摩あかり」
顔を上げてスマホをポシェットにしまう。
スマホとチャック部分がこすれる音がした。
いつもなら画面に傷が入らないか、焦るけど、それ以上に、私の心臓は勝手に走り出していた。

「どうして私だって分かったんですか?」

「うーん、教師の感、かな?」

ふざけて応える戸谷先生は、記憶の中より、少しだけくたびれていて、あの頃よりずっと大人の男性に近づいていた。

「私、全然雰囲気が違うと自負してたんですが」

ネイルは大学に入ってから始めた。爪を噛む癖が治らなくて、深爪、出血の悪循環を繰り返す私にバイトの同僚が教えてくれた。

メイクも、人を刺すような目から少しでもマルに近づくようにアイラインやアイプチを工夫していた。
どれも世間に擬態するためだった。
もう、ゴミを投げられないように。
私がもっと個性を消せるように。

制服の私しか会ったことないのに、どうして紺のレースをあしらった、社交場に行く格好の私に気がついてくれたのだろう。

先生は私を見つけてくれるのが上手なのかもしれない。なんて少しでも幸せな妄想に着地することにした。