「あ、志摩。写真とってよ。僕とのツーショット」

「一応、私、今さっき、先生に失恋した人なんですけど。まあいいですけど」

私は左手でスマホを持って、インカメラで2人が入る画角を探した。


「カメラ3個ついてるスマホじゃん。キレイに写るかな」

私の背後で先生がうろちょろしている。

「インカメなんで、カメラ3つあろうが関係ないっすけどね。先生、もうちょい左、あと前にも寄ってください」

シートベルトを外して、私の背後に近づいてくる先生。ふわり、香水が香る。先生が私の肩に手を添えた。
暖かい、それ以上でもそれ以下でもない。
あの時みたいに肩が、熱を浴びることもない。先生と一つになってしまう訳なかった。
バイトで酔っ払ったおじさんに体を触られるたび、吐き気がしていた。異物が体を這うような感覚が許せなかった。ますますあの時の先生と触れ合った感覚が、神格化されていった。
でも、今日で分かった。先生は神様なんかじゃない。普通の人なんだから。
私と一つになるわけないじゃん。15歳の私へ教えてあげたい。少女漫画の読みすぎだって。

「はい。撮れましたよ」


「じゃあ、また僕にも送っといてくれる?」

「分かりました。じゃあ、また後で連絡しますね。脅すような真似してすみませんでした。失礼します」

「じゃあ、気を付けて帰りなよ」



私は先生の車をコンビニから見送った。

知らない町にも平等に朝はくる。
早朝4時43分。出勤前の人たちがチラチラと派手な格好の私を見た。

私は気にせず、大きく伸びをした。

そして、帰り道の高速バスチケットをまた探すためにスマホを開いた。
ついでに先生の写真と連絡先を全部消してやった。


「もしもし、ママ?
…うん。帰ってきた。トランペット取りに家に帰るね」