普段は学校にスマホを持ち込むと没収される規則があったが、卒業式のときだけは例外扱いしてくれた。

音楽室で撮影したのか、背景の壁には無数の穴と、よくわからない音楽記号のポスターが貼られていた。
先生がインカメラで撮ってくれたその写真の中の私は恥ずかしそうな、でも内心嬉しいのを悟られたくもないというような、中途半端な笑顔だった。一重がより細長くなって、不細工な顔だったとうんざりした。
横に写る戸谷先生は、爽やかに、前歯を見せて笑っていた。私と同じく笑うと目尻が下がって細くなっているのに、全く鋭さのない目が可愛い。
スラリ、Eラインが美しい。ニキビまみれの私の頬が嫌になる。


『志摩、もっとこっち寄りな。画角に入らん』



私から奪ったスマホを高く掲げて、インカメラで写りを確認する。


私はできるだけ先生に触れないように、でも近くにはいられるように体を小さくして、小さなスマホ画面の画角に入るようにした。それでも、先生は左手を私の背中にまわして、私を戸谷先生の近くに引き寄せた。

私の右肩と戸谷の胸板が当たった。それだけなのに、私の右肩は戸谷先生の一部になってしまったんじゃないかと思った。
何にも知らない15歳の春だった。そう思いながらスマホの画面を優しく撫でた。