「赴任した中学校に来たらめちゃくちゃ綺麗な音で、トランペットで歌う女生徒がいるって思ったんだよ。空より高くて海より深い、風になったような、爽やかな音だった」

びっくりするくらい陰キャだったし、いじめられてるのに何にも反応しない女の子だったけど、

と改めて私に対しての印象を述べられて別方向から傷ついた。
自覚はあった。いじめられっ子だったし。だから今はアイプチもネイルも見た目をフルチェンジしている。世の中に擬態するため、バイト先で相手に私を選んで貰うため。田舎に縛り付けられた過去を否定するため。個性を消すため。理由なんかいくらでもある。その中で絶対譲りたくない理由が“いつか先生に会った時に見合う人間であるため”だった。

「今までバイトでレッスンしてあげた子や、音大生と同じレベルだった。絶対技術が伸びるって思った。だからソロコンテスト出るように促した」

「それで、私を先生に重ねて見てたと。先生は私に1位を取らせたかったんですよね?自分が1番を取れなかったから」

無言は正解だった。

煙たい車内が息苦しい。
あの、ソロコンテストの帰り道と同じくらい重たかった。
“演奏なんかそれぞれ。自由に奏でよう”なんていうのはコンテストでは意味のない言葉だった。

2位、という結果も十分映えあるものだ。

でも、当時の私は、先生に『1位を取ろうね』と言われていた。
先生のために、1位を取りたかった。

取れなかった私はゴミと同じくらい価値がないと思っていた。このまま先生に刺されても文句は言えないと思って、左胸に2位とかかれた盾を抱きしめて、今みたいに助手席に座っていた。