「ああ、そうですね。ソロコンテスト、先生の運転で会場に行きましたものね」

私の、最後のトランペット演奏は、先生の伴奏で挑んだソロコンテストだった。

「結果、2位、でしたけどね」
トランペットも辞めましたね。
できるだけ、吐き捨てるように言った。

先生が、ようやくここに来て、傷ついたような顔をした。窓の反射でそれを確認して、私は少し嬉しくなる。
私の為だけに傷ついてくれた。少しだけ、口角を上げてしまうのを慌てて下げた。

「ごめん」
「いいんです。先生。ソロコンテスト、1位になったところで、高校の進路も親に泣きつかれて行けなかっただろうし」
「…本当に、ごめんなさい」

先生は、前を見たまま、ロボットみたいに何度も呟いた。

芸術コースは、学費、部活動の費用、寮の費用といろいろ資金が必要で、3年間抽出できない。
はっきり、親から金の話をされたのは初めてで、今までうちはある程度余裕のある家庭だと思っていたのは私が無知なだけだった。
私はどっちにしろ、この町に縛られる運命だった。

高校で、バイト、勉学に勤しんだから学費免除で県外の大学に進学することができた。
その間の辛さを耐えるには“せんせい”が心の支えだった。


街頭が少ない道路を、法定速度を守って走る車はこの車だけだった。

「私、先生に告白の返事聞くために同窓会に来たって言いましたよね。もう一つ、目的があります」

次第に田舎に近づくと、煌々と輝く建物は、コンビニだけになった。

コンビニよりも駐車場のほうが3倍くらい広いのは、長距離トラックドライバーが寄りやすいからなのか、田舎すぎて土地があまりに余っているからなのか分からなかった。先生はその、駐車場に誰もいないコンビニに車を停めた。