「僕、タバコ買いに行くためにたまたまコンビニ寄ったんだよね。同窓会、行かないの?」

「え、タバコ吸われるんですか?」

「意外?外でしか吸わないから知らなかっただろうね」
ふふ、と意地悪に笑いながら入店した先生はすぐに買い物を済ませて出て来た。私の隣に立つと、すぐに箱を開けて口に咥えた。
ゆらゆら、煙と赤い光が揺れた。
ホタルみたいに揺れるそれをただ眺めた、
いつのまにか、ポツリ、雨粒が落ちる。水溜りと、雨粒は街の灯りを乱反射させて、ますます眩しくさせる。

先生の横を揺蕩う煙が憎い。私が煙になれたらよかったな。
いる?と先生が箱を差し出してきたのを手を降って断った。吸いたい訳では無い。

「志摩、同窓会行って、辛くならないの?イジってた奴ら幹事だから絶対いるよ」

「はあ、別に」

私はもう思い出せないいじめ主犯格たちを適当に話題から流した。

私に消しカスを投げてきた奴らは本気でイジってた。友達のノリだったと主張した彼女たちは卒アルに寄せ書きまで書いてくれた。多分、大人になった今、私に謝りたくて同窓会に誘ったのだろう。
本当は来るなんて思ってなかっただろうに。

厚かましい。
憎たらしいのに、私は最後まで何も言えなかった。
トランペットすら取られた私は、静かに指から血を流すしか表現方法がなかった。


「先生に会えたらもういいです」

「嬉しいこといってくれるね」


「私は返事、聞きに来ただけですから」

不意に、戸谷先生の顔がさっきまで冗談を言っていた顔のまま固まった。


このリアクションなら、忘れたとは言わせない。
過ぎゆく人たちの数が多くなってきた。
酒と、どこかの鉄板焼、焼き鳥と様々な匂いが交じり始めた。

土曜日の夜は、どこも飲み会が行われているんだ。私はそれに呼ばれていったり、2次会でやってきた客の相手をしたり、そんなアルバイトをしていた。土曜日は稼ぎ時だった。
相手を褒めて、飯にありつける。プラスでチップも。金が必要な私には手段を選べなかった。

だから身なりもかなり気を使ってあるつもりだったのに、先生は一発で私だと見抜いた。