虚しさ。
毎日のように、自分に好意を向けてくれる誰かと肌を重ねている。それなのに、こんなにも満たされない。
「私、なにしてんだろ。」
ふいに出たこの言葉ももう何度思ったことだろうか。見慣れた真っ暗な夜道、乱れた髪。
誰かに対する「好き」なんて感情は、私にはもう感じることも思い出すこともできなくなっていた。
●
「 僕じゃだめなんですね 」
彼との出会いは、私が働くカフェだった。
元々コーヒーが好きな彼は、私がそのカフェで働く前からの常連だったらしい。
よく店長から、私と同じ大学に通う一つ年下の男の子でカフェの常連さんがいるという話を聞いていた。
ある日、大学生らしき男の子がレジ前で店長と親しそうに話していた。
大学生でコーヒーが好きな男の子に出会ったことが無かった私は、彼に興味が湧き、話してみたいと思った。
「ねぇ、もしかして蒼空くん?」
「はい、そうです。」
「やっぱそうだ!桜岡大学だよね!私も同じ大学の4年生なんだ~」
「そういえば前に大学で見かけた気がします。4年生だったんですね。」
落ち着いた声のトーンと優しい表情。
第一印象は、大学生の割には大人っぽさを感じる子だと思った。
「あの、よかったらインスタ繋がりませんか?」
「いいよ~。交換しよ!」
「ありがとうございます。」
インスタのIDを伝え、私はカフェ業務に戻った。
2週間後、カフェで営業終了後の夜にイベントが開催されることになった。
アルコールと音楽で賑わい、従業員やその知り合いが集まるような小規模なイベント。
イベント当日、もう少し彼と話をしてみたいと思っていた私は彼にDMを送った。
「ねぇ、もしよかったら今日のイベント一緒に行かない?」
すぐに既読が付き返信が来た。
「いいですよ~。何時に集合します?」
集合時間と場所を決め、1時間後私たちは会った。
高校時代の部活の話や互いの兄弟の話、サッカーが好きだという趣味の話。そんなたわいもない話をした。
元々年下は恋愛対象外だった私は、特に彼を異性として意識する事もなく友達感覚で接していた。
垢抜けきれていない黒髪のマッシュに眼鏡をかけた彼からは、女性との会話に対する不慣れさを感じた。会話をしていて、どこか壁を感じると思いつつもたまに見せる笑顔がとても可愛く印象に残ったのを覚えている。
その帰り道、彼は歩いて私を家まで送ってくれた。
「蒼空くんは実家暮らし?」
「いや、僕は地元を出て一人暮らししてます。だから何時まで外に居ても誰にも文句言われません笑」
(.....大学とバイトと家事を両立するなんてすごいな、大学とバイトだけでいっぱいいっぱいの私には厳しそうだ。)
「まだ時間大丈夫ですか?よかったら、もう少しお話してから帰りませんか?」
彼から提案を受け、近くの公園に寄り少し話してから帰ることにした。
ベンチに腰掛け会話をしていた。だんだんと眠くなってきた私は、彼の肩に頭を預けた。
「そろそろ帰ろうか」
眠気が強くなってきた私はそう言って彼の方を向くと、彼もこちらを見ていた。
__私達はそのまま唇を重ねた。
数日後、彼からDMが来た。
「優愛さん、美味しいハンドドリップのレシピ見つけたんです。よかったらコーヒー淹れるので飲みに来ませんか?」
「え!いいの!行きたい~」
家に連れ込む為の口実か?
遊んでいるどころか女性との経験も少なそうには見えたが、結局は大学生の異性なんてという偏見を持っていた私は、そんなことを想像しながら大学帰りに彼の家に向かった。そして考えた末、まあ行けば分かるかなんて安直な結論に至った。
結果的に、彼は私にコーヒーを提供すると私が帰るまでまたたわいもない会話をするだけだった。
彼は、私が今まで出会ってきた男達とは違うかもしれない。そんな薄い期待を一瞬抱いてしまった。
(....いや、不慣れそうに見えるし遊びなれてなくて手が出せないだけかも。)
過去に恋愛で散々傷つき失望を重ねた私の思考は、悪く言うと臆病、よく言うと慎重だ。
気づけば私は、頻繁に彼の家に出入りするようになっていた。
家に行き、彼のコーヒーを飲み、その後は映画を見るかゲームをして帰る。暇な時間が出来れば電話もする仲になった。
それだけの日常が気づけば3か月程続いていた。
付き合う事も行為をすることもない、そんな関係に私は居心地の良さを感じていた。
薄々、彼が私に好意を抱いている事には気づいていた。それでも、この関係の居心地の良さを壊したくない私はその好意に気づかないふりをし続けることを選んだ。
今まで色んな男達に「好きだから」「愛してるから」なんて薄っぺらい言葉と理由付けで性欲を押し付けられる経験ばかりだった。
その為か、異性に身体を求められないこの現状にとても嬉しく思っている自分がいる。
残念ながら、居心地のいい関係は長くは続かない。そんなことは分かっていた。
この関係が続くのが時間の問題であることも、私だけは知っていた。
いつも通り、彼の家でたわいもない会話を重ねていた時に彼は言った。
「優愛さんは僕のこと、好きですか?」
ついに聞かれてしまった。私が苦手な質問だ。
「んー?それは人として?それとも恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味で、ですかね。」
「蒼空くんと話してて楽しいし、居心地良いし、ビジュも好みだし、良い人だなとは思うよ。一途そうだから結婚したら幸せになれそうだなとか。」
「嬉しいです。じゃあ、、、」
「でもね、やっぱ私恋愛感情ってよく分からなくて。だからごめん、恋愛的な意味で好きかどうかは分からないや。」
「そう、、ですよね。前に言ってましたもんね。」
過去の散々な恋愛話や、その経験により恋愛感情が分からなくなってしまった話を私は彼に話していた。
もちろん、彼といるのは楽しいし居心地も良い。ただ一緒に居て、ふとした時に好きだなって思うとか、帰り際恋しくなるとか、よく聞く「恋してる時の条件」には当てはまるようには思えなかった。
誰かを好きになりたい、恋愛をしたいと思いつつも、どうしても恋愛感情というものが生まれない、分からない。
好きという感情が分からなくなってしまった私は、好きの定義・条件をここ数年間ずっと探し求めていた。
それに当てはまれば自分は相手の事が好きなんだろうと安心できる時が来ると思っていた。
だが、いくら人に聞いたり調べたりしても出てくるのは「ふとした時に思い出して会いたくなる」とか、「相手を独り占めしたくなる」とか、「楽しかったことや日常を相手に共有したくなるか」なんてものばかりだった。
どんな記事を見てもしっくりくるものはなく、仲の良い友達になら誰にでも思うだろうと思うようなものばかりだった。
「僕は好きですよ、優愛さんのこと。」
続けて彼は言った。うん、知ってたよ。
「そうだったんだね。ありがとう。」
私は、いかにも今知ったような反応で返した。
「ね、好きってどんな感じなの?気になる。」
単純に気になった。私が聞くと彼は恥ずかしそうに、少しにやけながら答えた。
「まず、毎回会ったときに今日も可愛いなって思って心の中で舞い上がってます。それから、一緒に居てふとした時に笑顔になると嬉しくなります。優愛さんが帰った後もすぐ会いたくなります。大学に行くと優愛さん居ないかななんて考えちゃいます。」
「え!そんな風に思ってくれてたの?嬉しい、ありがとう。」
誰かに好意を寄せられるのは気持ちがいい。同時に、その感情を感じることの出来ない自分に悲観した。
「優愛さんの過去の恋愛は理解してます、その上で付き合ってくれませんか?」
「ごめん、自分が蒼空くんの事好きなのか分からない状況では付き合えないかな。今まで好きか分からないまま付き合って結局失敗してるから、もうそういうのは辞めたの。」
誰かに告白をされると毎回言っているテンプレートと化したこの台詞。
「僕、振られたんですか。」
「ごめん。」
「.....あの。まだチャンスはありますか。一緒に居て、もし好きになってくれたら付き合ってくれますか?」
そして、相手に毎回言われるお決まりの台詞とこの流れ。みんな同じだななんて思いながら私はいつも通り台詞を続ける。
「もちろん、好きになれたらその時は付き合いたいな。」
関係を維持したいが為にこんな台詞を言っているわけではない。私自身もそれをずっと望んでいるのだ。ただずっと叶わないだけで。
それからの日々は、二人の関係性に少しずつ変化があった。
私に気持ちを伝えた彼は、気持ちに素直に動くようになった。外を歩く時は手を繋ぐようになった。ハグやキスもするようになった。
口約束をしていないだけで付き合っているのと変わらない関係になっていた。
そんな関係が続き、気づけば告白から二ヶ月程が経った頃。
その日、いつも通り彼の家で過ごしそろそろ帰ろうと思った時に彼は言った。
「優愛さん、彼氏、いたんですね。」
あー、ばれちゃったか。まあ、時間の問題だとは思ってはいた。
「彼のインスタ見たのかな?」
「うん。。。」
彼は私と繋がりのある異性のストーリーに足跡を付け、自分の投稿を見せるように誘導している。
投稿には私とのツーショットや私がたくさん載っているからそれを見たのだろう。
「だよね、言えなくてごめんね。実は二週間前に元彼と復縁したんだ。」
「その人って、一度浮気して優愛さんを傷つけた人ですよね。」
「そうだね」
「付き合ったってことは、好きなんですか?」
「分かんない、けど、そうかもしれない。」
「そんな奴と居て、優愛さんは幸せなんですか?」
「幸せにはなれないだろうね。浮気するような人だし。」
「......僕と居たら絶対に幸せになれます。大切にします。僕じゃだめなんですか?」
「うん、ごめんね。今はあの人と居たいと思ってしまうの。」
ちゃんと言わなくてはとは思っていた。一方で、結局バレるまで自分から言い出せないこともよく理解していた。
だからこそ、この関係は時間の問題だと私だけは知っていたんだ。
彼は黙った。少し怒ったような悲しいような表情をしていた。
私、良い子を傷つけちゃったんだな。傷つけたくはなかった。けれど、臆病な私は辞めることもできなかったんだ。
突然、彼は私の肩を掴み私を押し倒した。そのままキスをされ服を脱がす彼。
いつもより強引なのに優しさが消え切らない丁寧な彼の動作。
ごめんね、やっぱり私は貴方を好きにはなれないみたい。優しくていい子だから。
私が惹かれてしまうのは欲に塗れて強引に求められるあの感覚だから。それを真似しても貴方は貴方のまま。変わらないでいてね。
せめてもの蒼空くんへの償いとして、そして過去に浮気した彼氏への仕返しだと自分の中に言い訳をして彼を受け入れた。
私達は、最初で最後のワンナイトをした。
帰り際、今日も彼は私を家まで歩いて送ってくれた。
「待ってます。ずっと。」
「送ってくれてありがとう、じゃあね。」
__さようなら。
●
優愛さんと離れてから、僕はずっと彼氏のストーリーを見続けてしまっている。
あいつのストーリーに載る優愛さんの笑顔はいつも可愛い。
その笑顔の隣が自分だったらよかったのに。
嫌いになれきれない貴方へ。クズ同士、お幸せに。
「キスマくらい、付けてやればよかったな。」
毎日のように、自分に好意を向けてくれる誰かと肌を重ねている。それなのに、こんなにも満たされない。
「私、なにしてんだろ。」
ふいに出たこの言葉ももう何度思ったことだろうか。見慣れた真っ暗な夜道、乱れた髪。
誰かに対する「好き」なんて感情は、私にはもう感じることも思い出すこともできなくなっていた。
●
「 僕じゃだめなんですね 」
彼との出会いは、私が働くカフェだった。
元々コーヒーが好きな彼は、私がそのカフェで働く前からの常連だったらしい。
よく店長から、私と同じ大学に通う一つ年下の男の子でカフェの常連さんがいるという話を聞いていた。
ある日、大学生らしき男の子がレジ前で店長と親しそうに話していた。
大学生でコーヒーが好きな男の子に出会ったことが無かった私は、彼に興味が湧き、話してみたいと思った。
「ねぇ、もしかして蒼空くん?」
「はい、そうです。」
「やっぱそうだ!桜岡大学だよね!私も同じ大学の4年生なんだ~」
「そういえば前に大学で見かけた気がします。4年生だったんですね。」
落ち着いた声のトーンと優しい表情。
第一印象は、大学生の割には大人っぽさを感じる子だと思った。
「あの、よかったらインスタ繋がりませんか?」
「いいよ~。交換しよ!」
「ありがとうございます。」
インスタのIDを伝え、私はカフェ業務に戻った。
2週間後、カフェで営業終了後の夜にイベントが開催されることになった。
アルコールと音楽で賑わい、従業員やその知り合いが集まるような小規模なイベント。
イベント当日、もう少し彼と話をしてみたいと思っていた私は彼にDMを送った。
「ねぇ、もしよかったら今日のイベント一緒に行かない?」
すぐに既読が付き返信が来た。
「いいですよ~。何時に集合します?」
集合時間と場所を決め、1時間後私たちは会った。
高校時代の部活の話や互いの兄弟の話、サッカーが好きだという趣味の話。そんなたわいもない話をした。
元々年下は恋愛対象外だった私は、特に彼を異性として意識する事もなく友達感覚で接していた。
垢抜けきれていない黒髪のマッシュに眼鏡をかけた彼からは、女性との会話に対する不慣れさを感じた。会話をしていて、どこか壁を感じると思いつつもたまに見せる笑顔がとても可愛く印象に残ったのを覚えている。
その帰り道、彼は歩いて私を家まで送ってくれた。
「蒼空くんは実家暮らし?」
「いや、僕は地元を出て一人暮らししてます。だから何時まで外に居ても誰にも文句言われません笑」
(.....大学とバイトと家事を両立するなんてすごいな、大学とバイトだけでいっぱいいっぱいの私には厳しそうだ。)
「まだ時間大丈夫ですか?よかったら、もう少しお話してから帰りませんか?」
彼から提案を受け、近くの公園に寄り少し話してから帰ることにした。
ベンチに腰掛け会話をしていた。だんだんと眠くなってきた私は、彼の肩に頭を預けた。
「そろそろ帰ろうか」
眠気が強くなってきた私はそう言って彼の方を向くと、彼もこちらを見ていた。
__私達はそのまま唇を重ねた。
数日後、彼からDMが来た。
「優愛さん、美味しいハンドドリップのレシピ見つけたんです。よかったらコーヒー淹れるので飲みに来ませんか?」
「え!いいの!行きたい~」
家に連れ込む為の口実か?
遊んでいるどころか女性との経験も少なそうには見えたが、結局は大学生の異性なんてという偏見を持っていた私は、そんなことを想像しながら大学帰りに彼の家に向かった。そして考えた末、まあ行けば分かるかなんて安直な結論に至った。
結果的に、彼は私にコーヒーを提供すると私が帰るまでまたたわいもない会話をするだけだった。
彼は、私が今まで出会ってきた男達とは違うかもしれない。そんな薄い期待を一瞬抱いてしまった。
(....いや、不慣れそうに見えるし遊びなれてなくて手が出せないだけかも。)
過去に恋愛で散々傷つき失望を重ねた私の思考は、悪く言うと臆病、よく言うと慎重だ。
気づけば私は、頻繁に彼の家に出入りするようになっていた。
家に行き、彼のコーヒーを飲み、その後は映画を見るかゲームをして帰る。暇な時間が出来れば電話もする仲になった。
それだけの日常が気づけば3か月程続いていた。
付き合う事も行為をすることもない、そんな関係に私は居心地の良さを感じていた。
薄々、彼が私に好意を抱いている事には気づいていた。それでも、この関係の居心地の良さを壊したくない私はその好意に気づかないふりをし続けることを選んだ。
今まで色んな男達に「好きだから」「愛してるから」なんて薄っぺらい言葉と理由付けで性欲を押し付けられる経験ばかりだった。
その為か、異性に身体を求められないこの現状にとても嬉しく思っている自分がいる。
残念ながら、居心地のいい関係は長くは続かない。そんなことは分かっていた。
この関係が続くのが時間の問題であることも、私だけは知っていた。
いつも通り、彼の家でたわいもない会話を重ねていた時に彼は言った。
「優愛さんは僕のこと、好きですか?」
ついに聞かれてしまった。私が苦手な質問だ。
「んー?それは人として?それとも恋愛的な意味で?」
「恋愛的な意味で、ですかね。」
「蒼空くんと話してて楽しいし、居心地良いし、ビジュも好みだし、良い人だなとは思うよ。一途そうだから結婚したら幸せになれそうだなとか。」
「嬉しいです。じゃあ、、、」
「でもね、やっぱ私恋愛感情ってよく分からなくて。だからごめん、恋愛的な意味で好きかどうかは分からないや。」
「そう、、ですよね。前に言ってましたもんね。」
過去の散々な恋愛話や、その経験により恋愛感情が分からなくなってしまった話を私は彼に話していた。
もちろん、彼といるのは楽しいし居心地も良い。ただ一緒に居て、ふとした時に好きだなって思うとか、帰り際恋しくなるとか、よく聞く「恋してる時の条件」には当てはまるようには思えなかった。
誰かを好きになりたい、恋愛をしたいと思いつつも、どうしても恋愛感情というものが生まれない、分からない。
好きという感情が分からなくなってしまった私は、好きの定義・条件をここ数年間ずっと探し求めていた。
それに当てはまれば自分は相手の事が好きなんだろうと安心できる時が来ると思っていた。
だが、いくら人に聞いたり調べたりしても出てくるのは「ふとした時に思い出して会いたくなる」とか、「相手を独り占めしたくなる」とか、「楽しかったことや日常を相手に共有したくなるか」なんてものばかりだった。
どんな記事を見てもしっくりくるものはなく、仲の良い友達になら誰にでも思うだろうと思うようなものばかりだった。
「僕は好きですよ、優愛さんのこと。」
続けて彼は言った。うん、知ってたよ。
「そうだったんだね。ありがとう。」
私は、いかにも今知ったような反応で返した。
「ね、好きってどんな感じなの?気になる。」
単純に気になった。私が聞くと彼は恥ずかしそうに、少しにやけながら答えた。
「まず、毎回会ったときに今日も可愛いなって思って心の中で舞い上がってます。それから、一緒に居てふとした時に笑顔になると嬉しくなります。優愛さんが帰った後もすぐ会いたくなります。大学に行くと優愛さん居ないかななんて考えちゃいます。」
「え!そんな風に思ってくれてたの?嬉しい、ありがとう。」
誰かに好意を寄せられるのは気持ちがいい。同時に、その感情を感じることの出来ない自分に悲観した。
「優愛さんの過去の恋愛は理解してます、その上で付き合ってくれませんか?」
「ごめん、自分が蒼空くんの事好きなのか分からない状況では付き合えないかな。今まで好きか分からないまま付き合って結局失敗してるから、もうそういうのは辞めたの。」
誰かに告白をされると毎回言っているテンプレートと化したこの台詞。
「僕、振られたんですか。」
「ごめん。」
「.....あの。まだチャンスはありますか。一緒に居て、もし好きになってくれたら付き合ってくれますか?」
そして、相手に毎回言われるお決まりの台詞とこの流れ。みんな同じだななんて思いながら私はいつも通り台詞を続ける。
「もちろん、好きになれたらその時は付き合いたいな。」
関係を維持したいが為にこんな台詞を言っているわけではない。私自身もそれをずっと望んでいるのだ。ただずっと叶わないだけで。
それからの日々は、二人の関係性に少しずつ変化があった。
私に気持ちを伝えた彼は、気持ちに素直に動くようになった。外を歩く時は手を繋ぐようになった。ハグやキスもするようになった。
口約束をしていないだけで付き合っているのと変わらない関係になっていた。
そんな関係が続き、気づけば告白から二ヶ月程が経った頃。
その日、いつも通り彼の家で過ごしそろそろ帰ろうと思った時に彼は言った。
「優愛さん、彼氏、いたんですね。」
あー、ばれちゃったか。まあ、時間の問題だとは思ってはいた。
「彼のインスタ見たのかな?」
「うん。。。」
彼は私と繋がりのある異性のストーリーに足跡を付け、自分の投稿を見せるように誘導している。
投稿には私とのツーショットや私がたくさん載っているからそれを見たのだろう。
「だよね、言えなくてごめんね。実は二週間前に元彼と復縁したんだ。」
「その人って、一度浮気して優愛さんを傷つけた人ですよね。」
「そうだね」
「付き合ったってことは、好きなんですか?」
「分かんない、けど、そうかもしれない。」
「そんな奴と居て、優愛さんは幸せなんですか?」
「幸せにはなれないだろうね。浮気するような人だし。」
「......僕と居たら絶対に幸せになれます。大切にします。僕じゃだめなんですか?」
「うん、ごめんね。今はあの人と居たいと思ってしまうの。」
ちゃんと言わなくてはとは思っていた。一方で、結局バレるまで自分から言い出せないこともよく理解していた。
だからこそ、この関係は時間の問題だと私だけは知っていたんだ。
彼は黙った。少し怒ったような悲しいような表情をしていた。
私、良い子を傷つけちゃったんだな。傷つけたくはなかった。けれど、臆病な私は辞めることもできなかったんだ。
突然、彼は私の肩を掴み私を押し倒した。そのままキスをされ服を脱がす彼。
いつもより強引なのに優しさが消え切らない丁寧な彼の動作。
ごめんね、やっぱり私は貴方を好きにはなれないみたい。優しくていい子だから。
私が惹かれてしまうのは欲に塗れて強引に求められるあの感覚だから。それを真似しても貴方は貴方のまま。変わらないでいてね。
せめてもの蒼空くんへの償いとして、そして過去に浮気した彼氏への仕返しだと自分の中に言い訳をして彼を受け入れた。
私達は、最初で最後のワンナイトをした。
帰り際、今日も彼は私を家まで歩いて送ってくれた。
「待ってます。ずっと。」
「送ってくれてありがとう、じゃあね。」
__さようなら。
●
優愛さんと離れてから、僕はずっと彼氏のストーリーを見続けてしまっている。
あいつのストーリーに載る優愛さんの笑顔はいつも可愛い。
その笑顔の隣が自分だったらよかったのに。
嫌いになれきれない貴方へ。クズ同士、お幸せに。
「キスマくらい、付けてやればよかったな。」