半袖を着ていても汗が滲む、暑い真夏の夜。

マンションのベランダは、今日に限ってどの階も賑やかで人の声が多い。


「……お、莉子。来たか」

「……うん」


仕切り板ごしに出迎えてくれたのは、お隣さんであり幼なじみの大地。

毎年こうやってベランダから花火大会を一緒に見るのが、恒例となっていた。


「どうした?何かあったか?」


……今日、言わなければいけないことがある。


「……ううん、大丈夫」


無理矢理笑顔を作って答えると、大地は


「そ?ならいいけど」


と安心したようにすぐに夜空に視線を移した。


「もうすぐだな」

「うん。楽しみだね」


スマホで時間を確認すると、もうすぐ二十時になる。

その瞬間を今か今かと待っている大地。

他の階の人たちも、同じようにその瞬間を待っているのが声でわかる。

雲の隙間から瞬く星が綺麗で、月が静かに顔を出しているけれど、そんな神秘的な景色が今は切ない。