唯菜は手を顔に当てて涙をこらえていた。


「いきなりで……びっくりした」


「おいで」


両手を広げてその中に唯菜は埋もれた。


「ありがとう、奏多、嬉しい」



「唯菜より先に親族に結婚したい人がいるって言っちゃった(笑)」


え、嘘でしょ……


唯菜は涙を拭いて座り直した。


「私が断ったらどうするの?」


「断る?嘘だろ!」



「だって一緒に住んで嫌なところとか出てきたらどうするの?まだ2ヶ月しか経ってないんだよ?」



「俺、プロポーズ断られんの?付き合いも隠してきたのに?」



「それは、奏多が言い出した事でしょ?奏多は前触れがないからわかんないんだよ、引越しだって急だったし」



「そうかなー、俺は何も言わなくても唯菜はわかってくれてると思うんだけどな」



「言葉が、足りない……」



「何でさ、ちゃんと好きって言ってるじゃん」



「そういう事じゃない、学生じゃないんだから好きだけじゃ……ちゃんとお互いの事を話さなきゃ」



「話したじゃん」



「2年付き合ってやっとでしょ、そんな財閥みたいな大きなグループの御曹司って……生活のレベルが違うでしょ」



「そんなことないよ、岡田薬品で働いてる普通のサラリーマンだし」



「普通のサラリーマンは今の年収ではこんなマンションには住めないの、私だって家賃を出したかったのに断られたらさ、私と別れても困らないって思うの、奏多の相手は私じゃなくてもって……」



「そんな事ない!そんな風に思ってないから!」



ビクッとした。



奏多がこんな大きな声を出したのは初めてだった。