「そこまでです。それ以上の悪事は今すぐやめて自首してください。」
 「あぁ?なんだおめーは?魔女のコスプレなんかしやがって。笑わせに来たのか?」
 
 強盗の言動に頭に血が上った私は、懐から杖を取り出し、杖の先から赤色の光が出る。その光はすごく熱く今にも火傷しそうなほどだった。私は一切の容赦もなしに強盗の方に向かって光を発射する。そしてそのまま…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 私は高田未来。今日も昼間はランチ行ったり動画配信サイトで好きなアニメを一気見したりと、充実した1日を送っていた。…要するにただのフリーターである。もちろんこのままではいけないことは分かっている。いつかはまた再就職しないといけないことも重々承知だ。だけど今は、このフリーター生活を満喫させてほしい。

 ひときしり1日を満喫した私は夜になり、いつものミント香水を焚いて寝る準備をする。さて今日はどんな夢が見られるだろう。どこへ出かけようか。そんな楽しい想像をしながらベッドに入り、私の体は快眠モードに入る。

 そうして次に目を覚ましたのは、いつもの繁華街がそびえ立つ夢の世界だった。やっぱりここはいいな。会社を退職する前からずっと来ているが、何度来ても飽きない。会社で抱えていたストレスをいつもここで解消していたなぁ。つい最近の出来事のはずなのに、かなり懐かしいと思ってしまう自分がいる。

 さて今日はどこに行こうか。今までは近場の店とかでくつろいでいたが、せっかくだし今日は少し遠くまで歩いてみますか。この繁華街はすごく広く、20分歩いた先にも様々な店がある。旅が好きな私にとって1度思い立ったら、行かずにはいられなくなった。

 そうして私は20分歩き、今まで見たことない街並みや店を見渡しながら少し興奮していた。こんな店があったのか!とか一風変わった店などをたくさん発見し、私の脳は気づいたら刺激でお腹いっぱいだった。これだから旅はやめられん。そう思いながら歩いていると、1軒の小さなアパレルショップを見つけた。普段アパレルショップに入ることはあまりない私だが、たまには入ってみようかな?と思い、入ってみることにした。特に買うものはないけどなぜか入ってみたいという気持ちにさせるのがアパレルショップ…と思うのは私だけだろうか?

 ちなみに私が今着ている服は綿製の白ブラウスに黒のロングスカートに、茶色のブーツ。まあ女性らしいっちゃ女性らしい服装かな。

 「いらっしゃいませー!」

 そうして中に入ると笑顔の眩しい20代のポニーテール女性が元気な声であいさつしてくれ、私も笑顔で会釈する。やばいこの店員さん、ただでさえ可愛いのに笑顔も素敵とか反則過ぎる。絶対彼氏とかいるよね?そう思いつつも私は店内に飾られてある服を一通り見て回った。内装や売られている服も現実のとほとんど同じであり、おしゃれだなーと思いつつも買いたい!とまでは思わなかった。

 店員さんには申し訳ないけど、私はこうやってぐるぐる見て回るだけでも楽しい。この服とかいくらするんだろう?あれ、そもそもここ私の夢の世界だし、お金とかいるのかな?と疑問になったがどうせ買わないのでそこは無視した。そうして一通り服を見ていく中、私はあるものに目が留まった。それは普通こういったアパレルショップには売られていない、赤のローブに黒の三角帽子、そして三角帽子の左右に紫色の猫耳のような飾りがされている服が売られてあった。…要するに魔女の服であった。

 「これは…」

 あまりにも気になったため、私はしばらくその魔女服を見ていた。すると笑顔の眩しい女性店員がこちらに近寄ってきた。

 「その服、お好きなんですか?」
 「え、と…好きと言うか…どうしてこの服がここに?」
 
 私は思ったままの疑問をそのまま投げかけてみた。すると店員さんはこれまた笑顔で答えてくれた。
 
 「魔女服も好きな人、最近増えているんですよね~!あ、ちなみにこの服にはセットで星型の杖もついているんです!もしかしてお客様も好きですか?」(にっこり)
 「え…と…そうですね。私も魔女服は好きな方…ですね。」
 
 笑顔が眩しい…。この流れ、絶対魔女服好きじゃないなんて言えない。これだから笑顔は卑怯だ。すると店員さんはまたも笑顔で接客してきた。

 「ほんとですか!お客様見る目があります!!もしよかったらご購入されていきますか?」(にっこり)
 「え、いや、買うまでは…」

 さすがに買うまでは想定していなかった。そもそもお金ないし…。すると店員さんはさらに笑顔で詰め寄ってきた。

 「お客様、今すぐのご購入を検討されるならこの魔女服において、ただであげます!」
 「え、タダ?どうしてですか…?」
 「それはですね…」
 (ごにょごにょ。)
 「…本当なんですか、それ」
 「はい!お客様は幸運です!こんな美味しい話、この先一生ないと思いますよ!」
 「…。」

 美味しい話と言われ、一瞬疑った。けどここは夢の世界。私が魔女の格好をしようと全然問題ないし、何より夢の世界だ。店員さんの言ってることは本当と信じるのもありだと思った。騙されたと思って私は魔女服を購入し、せっかくなので店の試着室で着替えさせてもらった。着替え終わった私はさっきまでの白のブラウスから、赤色のローブに紫色の猫耳のような飾りがついた黒の三角帽子、黒スカートとブーツはそのままで、私は魔女の格好になった。

 「すごくお似合いですよお客様!…いえ、魔女さん!」
 「…!!魔女さん」

 いきなりの呼び方に一瞬顔が赤くなったが、まあ悪くはないでしょう。それにしても魔女か。内心言うと私は小さいころ魔女がすごく大好きで、1度でもいいから魔女になってみたいと何度も思っていた。まさかこんな形で昔からの夢が叶うとは。嬉しさを隠せない私が、そこにはいた。

 「お買い上げありがとうございました!また寄ってくださいね!」
 「はい、ありがとうございました。」

 店員さんにお礼を言った後、私は店を後にした。私は今、魔女の格好で街を歩いている…。夢の中だからできることですねぐへへへへ。魔女服だからか少し重く感じたが、まあそこはすぐに慣れるからいいか。そうして先へ進むか、来た道を戻るか。迷っていた矢先、突然怒号と悲鳴が聞こえた。

 「おらああああ!命が惜しくば金を出せやぁ!」
 「ひいいいいいいいい!やめてください!お金出しますから…」

 何事!?と思ってその方を振り返ってみると、そこには2人の影が見えた。1人は泣きながら助けを求めている女性。もう1人は全身黒色で、顔も黒色のマスクで隠している。…うん、明らかにこいつ強盗だ。あの女性からお金を巻き上げてようとしているというのは、私でも一瞬で理解しました。夢の中とはいえ、さすがに見過ごすことはできません。私は2人に近づいた。

 「そこのあなた、何してるんですか?」
 「あぁ?なんだおめーは!?」
 「え…魔女?」
 
 2人は私の方を見た。女性の方は私の格好を見てぽかんとしていた。…そりゃそうか。てか、そんなことは今どうでもいい!今はこの女性の命を守るのが最優先!

 「姉ちゃん。せっかく来たところ悪いが、このまま逃げるなら何もしねぇ。だが来るってんなら…金は出してもらうぞ?」
 「はいわかりました立ち去ります。…なんて言うと思いましたか?あなたのやっていることは立派な強盗です。今すぐその女性のもとから去って、警察に自首してください。」
 「はっはっは、素直に言うことを聞く強盗がどこにいるんだっての!せっかくだ。姉ちゃんの方から金をもらおうか。そんな魔女みたいな格好して、俺らを笑わせに来た姉ちゃんからよぉ!」
 「…は?」
 
 強盗の挑発に頭に来た私は、懐から杖を取り出した。

 「痛い目にあいたいってことはよくわかりました。殺したくはないですが…」
 「はっはっは!杖まで出しちゃって!そんないい年して今更魔女ごっこかい?」
 「…」

 私はさっきの店員さんがこっそり耳打ちしてくれたことを信じて、星形の白いステッキを取り出した。「コスプレに見えて、本物の魔法が使える魔女服」だということを。そして私は強盗男をまっすぐ見ながらステッキに力を込め、気づいたらステッキの先から赤い光が出始めた。そしてその光は徐々に大きくなっていき、発射の準備をする。

 「…!!」
 「な、なんだ!?」
 「私の忠告を無視した結果です。あなたには焼け死んでもらいます。そしてそこの女性の方、危ないので下がっていてください。」
 「は、はい!」
 
 次の瞬間、私は思い切り赤い光を強盗に向けて発射した。その赤い光は高速で強盗を包み込み、大きく燃え広がった。

 「うぎゃあああああああああ!あづいいいいいいいいい!」
 「これは…本当に魔法が出た!」

 自分でも驚きを隠せず、緊張して手が震えてしまった。や、やってしまった。人殺しだ私…そう思ったが、ここは夢の世界だから別に罪に問われないや…と切り替え、すぐに冷静さを取り戻した。しかも焼かれた強盗は、なんかぎりぎり生きていた。

 「か…かか…」
 「良かった…。生きてました」
 「あ、あの…大丈夫なんですか!?」
 「あ、多分大丈夫だと思います。はい。それよりあなた、けがとかはありませんか?」
 「あ、私は大丈夫です!ただ脅されただけなので…」

 まあいいでしょう、死んでないし。何よりここ私の夢の中だし。

 「それより…この方どうしましょう…。ここに放置ってわけにもいきませんし…」

 女性が尋ねる。しかし私も無策に強盗を燃やしたわけじゃない。炎魔法が使えるってことはもちろん…

 「えい!」

 私はとある魔法をかけた。それは杖から緑色の優しい光があふれ出し、その光は強盗を包み込むと火傷を取り除いてくれた。そう、回復魔法である。魔女なんだからこれくらいの魔法は当然!

 「あ…!」
 
 そして回復した強盗はすぐさま立ち上がり、再び私たちを見て襲って…はこなかった。

 「ひ、ひいいいいい!ごめんなさい!自首しますからどうか命だけはあああああ!!!」

 そう言って、強盗は足早にその場を去って行った。あー、やりすぎちゃったかも。でも最優先であるこの女性の命は守れたし、いいか。すると女性は笑顔でこちらに向かってきた。

 「あの、本当に助けていただいてありがとうございました!魔女様!」
 「いえいえ、私も魔女を堪能できて楽しかったですよ。」
 「あの、何かお礼をさせてください!」
 「いえ、そんな…」
  
 あれ、このくだり前もあったような…。それにしてもお礼…めんどくさいな。

 「大丈夫ですよ。ただ、今度からは誰かと一緒に行動した方がいいですね」
 「ですがお礼を…」

 お礼と言っても…特にこれしてほしいとか、何かが欲しいとかないしなぁ…。そう考えてた時、また視界がぐらついてきた。

 「あの!?どうしましたか!?」
 「すみません、夢から覚めてしまったようです…」

 あ、もう朝か。でも今までと違って会社にはもう行かなくていいし、憂鬱な気分にならなくていいっていうのは本当にありがたい。



 そうして現実世界に帰ってきた私は、ベッドの上にいた。当然ながら魔女服ではなくパジャマ姿になっており、現実世界に帰ってきたんだと再認識させられる。

 「昨晩はなかなか面白い夢でしたね…。」

 私はそう呟きながら昨日の夢を振り返って、にやけていた。また今晩も魔女服であちこち冒険してみたいな。…ん?ちょっと待って?

 次また夢の世界に行く時、魔女服はどうなるんだろう?もしかして魔女は昨晩限り…?

 そうだったらちょっとがっかりだ。まあ夢の事でがっかりしても仕方ないし、今日も1日を満喫しますか。そう思った私はカーテンを開け、今日1日の予定を立てるのであった。